★概要
- 日程:2016年10月15日
- 天候:快晴,三角点「皆沢奥」山頂気温: 17.3℃
- コースタイム:
自宅発5:10→大原八幡神社着6:00→54号鉄塔着8:30→三角点「皆沢奥」着11:10→休憩1時間10分→三角点「皆沢奥」発12:20→54号鉄塔着13:50→大原八幡神社着15:20→休憩10分→大原八幡神社発15:30→自宅着16:30 - 総行動時間:10時間(自転車:1+1時間,山行:5+3時間)
- 休憩時間:1.5時間
- ルート:松浦理博「安倍山系 中」,大原山稜,ルート①(大山ハイキングコース,愛郷の路)
★写真(316枚)
★動画(21本)
★ レポート
そしてその日がやって来た.新しい山に行くのだ!
と言っても4ヶ月ぶりの山行となるため,まだ身体ができていない可能性は十分にある.まずは標高1,000m以下の山を単独で登って,自分を試してみたい.いつもならこのような場合,近隣の竜爪山・文珠岳(1041m)がその候補に上がるのだが,今やちょっと食傷気味.もう少し標高が低くても良いので,難易度の低い安全なルートを持つ,まだ登ったことのない山はないものか?
例によって松浦理博「安倍山系」のページをめくりながら,未だに登っていない手頃な山を探したところ,「大原山稜」ルートの目標地点となっている無名峰が目に留まった.
標高は864m.その上,大原山稜ルート①は静岡市認定の「みどりの道(大山ハイキングコース)」となっている.それはこのルートが,ある程度の整備がなされており,道迷い,危険箇所,藪こぎ等がほとんどありえない事を意味する.しかもルート①のCTは約3時間となっており,そこそこの長さが確保されている上に,小さなアップダウンや急坂も途中にあるようだ.単独行の安全を確保しながら,自分の状態を知る試行には,ちょうどよいルートに自分には思われた.これで目標は決まった.
準備も終わり,自宅出発.いつもより遅い余裕の午前5時スタートで,空はすでに明るくなっていた.よって自転車のライトも不要.よく知っている藁科街道を北上し,約1時間ほどで,登山口となる大原八幡神社に到着した.
神社の鳥居の横には,静岡市教育委員会による大山ハイキングコース案内板があったので,とりあえずそれに目を通す.そこにはルート地図とともにCTが記載されており,ここから大山までは約3時間とされていた.はて,これは随分,早いペースではないか?「安倍山系」によれば,ここから864m峰までのCTが約3時間.そして864m峰から大山までは確か数kmあるはず.健脚者や若い人ならば3時間で大山まで行けるのかもしれないが…
さて,そそくさと鳥居の横で登る準備を進めていると,イヌの散歩をしている年配のおじさんが通りかかった.こちらから「おはようございます」と挨拶をすると,ちょっと間があった後「ここを登るのか?」と無愛想な返事が返ってきた.ハイと答えると,「最近あまり登る人がいなから,蜘蛛の巣だらけだぞ」と忠告された.確かに…
今回の歩くルートは静岡市認定路「みどりの道」とは言え,廃れてしまっていることは,「安倍山系」にも記されており,自分も知ってはいた.また去年の4月,この大山ハイキングコースの最終目的地である大山(986m)に別ルートから登った時,その山頂に朽ち落ちた標識を発見していた.
「愛郷の路」と読める.その標識が指示していると思われる山道を見やると,やや笹がかぶっており,あまり歩かれていない嫌なムードが漂っていた.
このときの「愛郷の路」こそが,今回の歩く「大山ハイキングコース」なのだ.ちなみに「安倍山系 中」及び大山ハイキングコース案内板には「愛郷の道」と表記されている.
「安倍山系」によれば,「愛郷の路」は藁科中学校の活動によるものとのことだが,現在,その活動は行われていないらしい.静岡市認定の「みどりの道」とは言え,ある程度荒れている可能性は十分にありえる…
…とは言うものの,認定路は認定路であり,非認定路とは別格だ.多少荒れていようが,少なくとも歩く事はできるはず.ルート上に崩落などが発生し,歩けなくなれば,静岡市が通行止めにするなり,認定解除をするはずなのだから.
「そうですか…何とか頑張ります」とおじさんには答えておいた.山道の樹間に張り巡らされた蜘蛛の巣には,ある程度慣れているつもりだ.たしかに口の中に蜘蛛の巣が入ってくるあの感覚は今でも好きにはなれないが,山行においてはさほど問題ではない.さあ,出発だ.
まずは神社の石段を登っていく.「安倍山系」によると70数段ほどの踊り場のない真っ直ぐな石段だが,高齢者にはちょっと危ないかもしれない.登りきると,中央に社殿,左に丸太ベンチ,右に簡易トイレと小屋のような建物がある.左右のどちらに行くかちょっと迷うが,右へ行くのが正解だった.トイレの左横から上っていく.
するといきなり急坂が始まった.ありがたいことにトラロープと丸太階段が設けられているので,比較的登りやすい.さすがは認定路,丸太階段もしっかりとボルトで止められており,金をかけている感じがする.
ただ…ありがたくないことに,この丸太階段の多くが丸太二本積みとなっており,段差が大きい.当然その分,登るのは厳しくなる.枯れ葉に階段が埋もれてしまうのを防ぐための,やむを得ない処置なのか?
この急坂を登る途中,幾つかのキノコを発見した.その後も数種類のキノコが何度もルート上に現れる.可食キノコなのか調べてはいないが,実りの秋を実感する.
さて急坂を終えて尾根に取り付くと,早くも静岡県山岳遭難防止対策協議会の標識が出迎えてくれた.比較的新しい標識のようだ.この後も標識はしっかりついていることだろう.尾根においても道筋が意外に明瞭なのは,整備されているためか,それともある程度このルートに需要があるためなのか?
しばらく歩くと右に展望地が現れた.茶畑の縁に当たる場所だ.ちょっと寄り道したのだが,まだ標高が260mぐらいであるため,気持ちのよい展望地ではない.しかしここまでに展望地はなく,ちょっとした息抜きにはなる.
展望地で写真を取ったあと,歩を進めると,「展望台→」と達筆で書かれた私製(?)標識が現れた.どうやら先程の茶畑の上方に展望台があるらしい.そちらに向かって歩いてみると,先程の展望とあまり変わらないが,地域の住宅などが見える場所に出た.確かにこちらの方が見晴らしは良いようだ.撮影後,再び本道に戻り,緩やかに登っていく.
やがて突然,左右分岐点のような場所に到着した.どちらにいくべきかちょっと立ち止まり思案したのだが,よく見えれば分岐の真ん中にあった木に標識が付けられているではないか.できればもっとちょっと手前に標識を付けてもらいたいところだ.
その後も標識,木に塗られた白ペンキ,マーキングテープなどにガイドされながら,杉林と広葉樹林が交互に現れる感じの山道を行く.
すると再び左右分岐のような場所に出た.今回も標識はあったのだが,地面に落ちてしまっており,どちらを指し示しているかわからない.
右側が正解のように思えるのだが,大きな木で進入禁止の横木がされているようにも見えた.そこで偵察してみると,右側の道にテープを幾つか発見した.どうやらこれは横木ではなく,単なる倒木らしい.倒木をまたいで右を行く.しばらく行くと標識や市岳連のマーキング等が現れ,安堵.さらに先を行く.
やがてコル部にある明確な分岐に出た.標識もしっかりと付けられている.大山・大原・小丹沢の分岐だ.この小丹沢方面の道は,「安倍山系」の大原山稜ルート③にあたる.ここには中電巡視路標識もあり,この道がハイキングコースだけでなく,中電巡視路でもあることを示していた.いやむしろ,「愛郷の路」は中電巡視路が,その元になっていると考えたほうが良いのかもしれない.
この分岐から先は土ではなく,石をえぐって作られたような道を上っていく.滑りやすく要注意.そこをしばらく行くと,思わず「ほほぉ」と口から出てしまった意外な場所に到着した.
一枚岩を削って,ステップを切ったかのように見える急坂だ.ちょっと岩場っぽいが,トラロープもない.まあ大した高さでもないので,気をつけて登れということなのだろう.確かにその通りなのだが,ステップの切り方が浅く,そこに細かい枯れ枝や枯れ葉がおおっているところが気になる.ここにトラロープがないということは,このハイキングコースは初心者向きではないということなのかもしれない.上りはいいが,下りは特に慎重に降りる必要がありそうだ.ここが今回歩いた大山ハイキングコースの唯一の難所と言える場所だと思う.
さて急坂をクリアしてさらに歩くと,再び分岐に出た.今度はちゃんとした指導標識がついているのだが,標識のむきが微妙で,どちらの分岐を指しているのかよくわからない.しばしの間,ルートを検討し,25号鉄塔への道を分けて直進することにした.実はこの分岐はどちらを選んでも,問題はなく,しばらく行けば合流となる.
今回のルートでは,一部標識取り付けにおいて,それが指し示す方向が不明瞭に思われるものがいくつかあった.標識以外にも理由はあるのだが,全体として分岐点や分岐点らしき地点における進路判断に時間がかかってしまった感がある.中でも次に現れた分岐点においては決断を要した.その分岐点には「愛郷の路」と書かれた標識があったにも関わらずだ.
それは明らかに進入禁止の横木のように見えた.むろん偵察したのだが,直進すれば別の鉄塔にたどり着いてしまい,ルートから外れてしまいそうだった.ただしもしかしたらその鉄塔から,「安倍山系」執筆後に新設されたハイキングコースの道があるのかもしれない.
もう一方の横木された道,おそらく従来の「愛郷の路」はというと,確かに荒れていて,人の踏んだ気配が薄いものの,道筋は比較的明瞭といった感じだった.さてどちらを行くか…
…結局,無難な(?)後者を選んだ.最悪,進めなくなっても,この分岐点まで戻れば問題ないだろう.覚悟を決めて横木をまたぎ越し,前進する.最初,道は枝や枯れ葉におおわれていて,やはりやや薄い感じだった.だがしばらくすると尾根に取り付いた.これならレールに乗った電車だ.やがて待望の標識も現れてくれた.
その後,中間目標だった展望地でもある54号鉄塔に到達.さらに何度か分岐点や分岐点らしき地点で進路判断しながら,上っていく.当然,判断が正しいかどうか,不安も若干あるのだが,しばらく行くと標識が出現し,判断を肯定してくれて安堵するというパターンが何度か繰り返された.
いよいよ目的地に近づき,「安倍山系」で予告されていた最後の急坂に差し掛かった.坂の手前には,「林業作業中」と書かれた黄色いノボリ旗があり,横には林道が見える.なるほどここまで自動車で来ることができるのだ.林道の発達により登山道が使用されなくなり,道が荒れたり,廃道化してしまうことはよくあるが,もしかしたらこの「愛郷の路」も同様の運命を辿っているのかもしれない.もう少しルート上に展望があれば,人気が出るのかも知れないが…
笹と杉の真っ直ぐな急坂を上り終える当たりは,トラロープ,マーキングテープ,私製標識,官製標識,黄色い林業作業中ノボリ旗が集中しており,賑やかな場所だった.そしてその賑やかな場所を少し抜けた山道の脇に,ぽつんと,その標石はたたずんでいた.それが三等三角点「皆沢奥」の標石だった.どうやら着いたようだ.
実に無防備な標石で,周りが石などで囲まれておらず,国土地理院の「大事にしましょう」標柱もない.ただ設置した場所が安定しているためか,しっかりと直立不動している.ひょっとしたらヤブの中に標石を探さなければいけないかもしれないと思っていただけに,これで一仕事終わった感じがした.
標石のある大山へと続く広い山道の脇で1時間ほど休憩をとった.時間があれば大山まで行ってもいいかと思ったが,すでに時間切れだった.山頂気温は17度程度.風も吹かず,暑くも寒くもない.ちょうどいい感じ.ただハエを中心とした虫たちは,夏ほどではないものの,まだ活発だった.ハエが多いのは,周囲が笹薮のためだろう.しかしハエだけではなく,もっと厄介な虫もその中に混じっていた.
スズメバチだ.休憩していると3センチぐらいのスズメバチが飛来し,自分の座っている場所から1mぐらい前方の地面に着地した.観察していると,枯れ葉に取り付き,腰を縦に振っている.どうも獲物と勘違いして,毒針を刺しているようだ.あちこちの枯れ葉に対して同じことをしながら,どんどん自分の方に近づいてくる.自分はディートを身体に吹きかけているのだが,おかまいなしだ.
逃げるべきかと思ったのだが,試したいことがあった.彼女が30センチぐらいまで近づいてきた時に,手元にあったディートのスプレーを彼女に向かって噴射してみた.さてどうなるか?
効果はてきめん.ディートを噴射した方向とは真逆の方向に,まっすぐ,文字通り「一目散」に飛び去って行った.ディートにこれほどの効果があるとは考えてみたこともなかった.なぜならディートを身体に噴霧してあっても,山のハエたちの場合,お構いなしに取り付いてくるからだ.少なくともスズメバチに関しては,ディート直接噴霧による防御法はありだとこの時思った.
休憩後,やってきた道を辿って下山を開始したのだが,その途中でカモシカに出会った.実はこれで本日2頭目.上りの途中,付近を撮影している時に,1頭目に出会った.撮影に集中したていたためか,近くにカモシカがいたことに自分は気づかず,撮影が終わった時に,ようやく気づくことが出来た.さっそく手にしたカメラでカモシカも動画撮影しようと思ったのだが,少し体を動かした途端に,「キュン」といったような警戒音を発しながら,山道から斜面を駆け下り,見えなくなってしまった.残念.
今度は失敗しないぞ.カメラを準備し,身体はカモシカに向けずカメラだけを,カモシカに向けて撮影を開始した.カモシカは例によってこちらをガン見している.少し撮影しながら山道を前進したが,反応がないので,身体をカモシカに向けて近づいてみると,さすがに彼も逃げ出した.撮影は一応できたので,良しとしよう.
下山時には,再びスズメバチに遭遇した.今度もやはり一匹で,歩哨なのかホバリングしていた.先程の個体よりでかい.羽音も大きい.これまた撮影中だったので,スズメバチを発見したときには,すでに数十センチまで接近していた.スズメバチらしく全くの強気で,さらにこちらにどんどん近づいてくる.今度はこちらが急いで退散した.もっと身体にディートを噴霧しておくべきなのか?
下山エピソードの最後を飾るのは,ズッコケだ.実は今回の山行にはもう一つの目的があった.それは最近購入したアクションカメラ「RICOH WG-M1」の運用試験だ.50%引きだったが,さらにセールで500円ほど引くとのことで,思い切って購入した.購入理由はスペック上,マイナス10度でも動作する点に尽きる.今まで採用していたスマホカメラによる撮影には,山においては色々と限界や障害があった.特にこれから始まる冬山の撮影は,スマホではかなり厳しい.このカメラの運用試験の結果については,別投稿する予定.
カメラのテストとして,展望のある鉄塔付近の動画撮影を下山時に行ったのだが,撮影しながら鉄塔脇の坂を下っている時に,ズッコケてしまった.本日滑ったのは,このときだけ.御存知の通り,下山時の撮影は危険が伴う.まさにセオリー通りとなったことに,ちょっと笑いがこみ上げてきてしまった.
ほぼ計画通りに下山も完了し,帰宅.標高も高くなく,アップダウンも少なかったためか,終了後の身体の負担は比較的軽かった.ただいくつか気になることもあった.
上りの時に途中で,かかとが痛くなってしまった点.これは普段の街歩きで歩いてしまい,足を前に出しすぎていたためだ.上りの途中で痛みの原因に気づき,意識して歩き方を変えたため,その後はいたみはなくなり,マメもできなかった.平地ばかりを歩いていたので,歩き癖がついてしまったらしい.もう少し山の歩き方を癖付ける必要があるかもしれない.
もう一つは持久力.終了後の身体の負担も軽く,行動中のカロリー摂取も普段より少な目で,実際,終了後の体重もあまり減っていないことから,カロリー消費量はいつもよりかなり少なかったものと思われる.ただ山行中の小休止の入り方が,普段より細かく入っていた気がする.歩き方も関係しているのかもしれないが,もうちょっと身体を作った方が良いようにも思った.
と言っても4ヶ月ぶりの山行となるため,まだ身体ができていない可能性は十分にある.まずは標高1,000m以下の山を単独で登って,自分を試してみたい.いつもならこのような場合,近隣の竜爪山・文珠岳(1041m)がその候補に上がるのだが,今やちょっと食傷気味.もう少し標高が低くても良いので,難易度の低い安全なルートを持つ,まだ登ったことのない山はないものか?
例によって松浦理博「安倍山系」のページをめくりながら,未だに登っていない手頃な山を探したところ,「大原山稜」ルートの目標地点となっている無名峰が目に留まった.
標高は864m.その上,大原山稜ルート①は静岡市認定の「みどりの道(大山ハイキングコース)」となっている.それはこのルートが,ある程度の整備がなされており,道迷い,危険箇所,藪こぎ等がほとんどありえない事を意味する.しかもルート①のCTは約3時間となっており,そこそこの長さが確保されている上に,小さなアップダウンや急坂も途中にあるようだ.単独行の安全を確保しながら,自分の状態を知る試行には,ちょうどよいルートに自分には思われた.これで目標は決まった.
準備も終わり,自宅出発.いつもより遅い余裕の午前5時スタートで,空はすでに明るくなっていた.よって自転車のライトも不要.よく知っている藁科街道を北上し,約1時間ほどで,登山口となる大原八幡神社に到着した.
神社の鳥居の横には,静岡市教育委員会による大山ハイキングコース案内板があったので,とりあえずそれに目を通す.そこにはルート地図とともにCTが記載されており,ここから大山までは約3時間とされていた.はて,これは随分,早いペースではないか?「安倍山系」によれば,ここから864m峰までのCTが約3時間.そして864m峰から大山までは確か数kmあるはず.健脚者や若い人ならば3時間で大山まで行けるのかもしれないが…
さて,そそくさと鳥居の横で登る準備を進めていると,イヌの散歩をしている年配のおじさんが通りかかった.こちらから「おはようございます」と挨拶をすると,ちょっと間があった後「ここを登るのか?」と無愛想な返事が返ってきた.ハイと答えると,「最近あまり登る人がいなから,蜘蛛の巣だらけだぞ」と忠告された.確かに…
今回の歩くルートは静岡市認定路「みどりの道」とは言え,廃れてしまっていることは,「安倍山系」にも記されており,自分も知ってはいた.また去年の4月,この大山ハイキングコースの最終目的地である大山(986m)に別ルートから登った時,その山頂に朽ち落ちた標識を発見していた.
「愛郷の路」と読める.その標識が指示していると思われる山道を見やると,やや笹がかぶっており,あまり歩かれていない嫌なムードが漂っていた.
このときの「愛郷の路」こそが,今回の歩く「大山ハイキングコース」なのだ.ちなみに「安倍山系 中」及び大山ハイキングコース案内板には「愛郷の道」と表記されている.
「安倍山系」によれば,「愛郷の路」は藁科中学校の活動によるものとのことだが,現在,その活動は行われていないらしい.静岡市認定の「みどりの道」とは言え,ある程度荒れている可能性は十分にありえる…
…とは言うものの,認定路は認定路であり,非認定路とは別格だ.多少荒れていようが,少なくとも歩く事はできるはず.ルート上に崩落などが発生し,歩けなくなれば,静岡市が通行止めにするなり,認定解除をするはずなのだから.
「そうですか…何とか頑張ります」とおじさんには答えておいた.山道の樹間に張り巡らされた蜘蛛の巣には,ある程度慣れているつもりだ.たしかに口の中に蜘蛛の巣が入ってくるあの感覚は今でも好きにはなれないが,山行においてはさほど問題ではない.さあ,出発だ.
まずは神社の石段を登っていく.「安倍山系」によると70数段ほどの踊り場のない真っ直ぐな石段だが,高齢者にはちょっと危ないかもしれない.登りきると,中央に社殿,左に丸太ベンチ,右に簡易トイレと小屋のような建物がある.左右のどちらに行くかちょっと迷うが,右へ行くのが正解だった.トイレの左横から上っていく.
するといきなり急坂が始まった.ありがたいことにトラロープと丸太階段が設けられているので,比較的登りやすい.さすがは認定路,丸太階段もしっかりとボルトで止められており,金をかけている感じがする.
ただ…ありがたくないことに,この丸太階段の多くが丸太二本積みとなっており,段差が大きい.当然その分,登るのは厳しくなる.枯れ葉に階段が埋もれてしまうのを防ぐための,やむを得ない処置なのか?
この急坂を登る途中,幾つかのキノコを発見した.その後も数種類のキノコが何度もルート上に現れる.可食キノコなのか調べてはいないが,実りの秋を実感する.
さて急坂を終えて尾根に取り付くと,早くも静岡県山岳遭難防止対策協議会の標識が出迎えてくれた.比較的新しい標識のようだ.この後も標識はしっかりついていることだろう.尾根においても道筋が意外に明瞭なのは,整備されているためか,それともある程度このルートに需要があるためなのか?
しばらく歩くと右に展望地が現れた.茶畑の縁に当たる場所だ.ちょっと寄り道したのだが,まだ標高が260mぐらいであるため,気持ちのよい展望地ではない.しかしここまでに展望地はなく,ちょっとした息抜きにはなる.
展望地で写真を取ったあと,歩を進めると,「展望台→」と達筆で書かれた私製(?)標識が現れた.どうやら先程の茶畑の上方に展望台があるらしい.そちらに向かって歩いてみると,先程の展望とあまり変わらないが,地域の住宅などが見える場所に出た.確かにこちらの方が見晴らしは良いようだ.撮影後,再び本道に戻り,緩やかに登っていく.
やがて突然,左右分岐点のような場所に到着した.どちらにいくべきかちょっと立ち止まり思案したのだが,よく見えれば分岐の真ん中にあった木に標識が付けられているではないか.できればもっとちょっと手前に標識を付けてもらいたいところだ.
その後も標識,木に塗られた白ペンキ,マーキングテープなどにガイドされながら,杉林と広葉樹林が交互に現れる感じの山道を行く.
すると再び左右分岐のような場所に出た.今回も標識はあったのだが,地面に落ちてしまっており,どちらを指し示しているかわからない.
右側が正解のように思えるのだが,大きな木で進入禁止の横木がされているようにも見えた.そこで偵察してみると,右側の道にテープを幾つか発見した.どうやらこれは横木ではなく,単なる倒木らしい.倒木をまたいで右を行く.しばらく行くと標識や市岳連のマーキング等が現れ,安堵.さらに先を行く.
やがてコル部にある明確な分岐に出た.標識もしっかりと付けられている.大山・大原・小丹沢の分岐だ.この小丹沢方面の道は,「安倍山系」の大原山稜ルート③にあたる.ここには中電巡視路標識もあり,この道がハイキングコースだけでなく,中電巡視路でもあることを示していた.いやむしろ,「愛郷の路」は中電巡視路が,その元になっていると考えたほうが良いのかもしれない.
この分岐から先は土ではなく,石をえぐって作られたような道を上っていく.滑りやすく要注意.そこをしばらく行くと,思わず「ほほぉ」と口から出てしまった意外な場所に到着した.
一枚岩を削って,ステップを切ったかのように見える急坂だ.ちょっと岩場っぽいが,トラロープもない.まあ大した高さでもないので,気をつけて登れということなのだろう.確かにその通りなのだが,ステップの切り方が浅く,そこに細かい枯れ枝や枯れ葉がおおっているところが気になる.ここにトラロープがないということは,このハイキングコースは初心者向きではないということなのかもしれない.上りはいいが,下りは特に慎重に降りる必要がありそうだ.ここが今回歩いた大山ハイキングコースの唯一の難所と言える場所だと思う.
さて急坂をクリアしてさらに歩くと,再び分岐に出た.今度はちゃんとした指導標識がついているのだが,標識のむきが微妙で,どちらの分岐を指しているのかよくわからない.しばしの間,ルートを検討し,25号鉄塔への道を分けて直進することにした.実はこの分岐はどちらを選んでも,問題はなく,しばらく行けば合流となる.
今回のルートでは,一部標識取り付けにおいて,それが指し示す方向が不明瞭に思われるものがいくつかあった.標識以外にも理由はあるのだが,全体として分岐点や分岐点らしき地点における進路判断に時間がかかってしまった感がある.中でも次に現れた分岐点においては決断を要した.その分岐点には「愛郷の路」と書かれた標識があったにも関わらずだ.
それは明らかに進入禁止の横木のように見えた.むろん偵察したのだが,直進すれば別の鉄塔にたどり着いてしまい,ルートから外れてしまいそうだった.ただしもしかしたらその鉄塔から,「安倍山系」執筆後に新設されたハイキングコースの道があるのかもしれない.
もう一方の横木された道,おそらく従来の「愛郷の路」はというと,確かに荒れていて,人の踏んだ気配が薄いものの,道筋は比較的明瞭といった感じだった.さてどちらを行くか…
…結局,無難な(?)後者を選んだ.最悪,進めなくなっても,この分岐点まで戻れば問題ないだろう.覚悟を決めて横木をまたぎ越し,前進する.最初,道は枝や枯れ葉におおわれていて,やはりやや薄い感じだった.だがしばらくすると尾根に取り付いた.これならレールに乗った電車だ.やがて待望の標識も現れてくれた.
その後,中間目標だった展望地でもある54号鉄塔に到達.さらに何度か分岐点や分岐点らしき地点で進路判断しながら,上っていく.当然,判断が正しいかどうか,不安も若干あるのだが,しばらく行くと標識が出現し,判断を肯定してくれて安堵するというパターンが何度か繰り返された.
やがて「安倍山系」にも案内板にも記されていなかった「天神石」の横を過ぎると,メンテされていないように見える鬱蒼とした薄暗い杉林に突入した.ただしヘッデンが必要なほどではないし,道はあいかわらず明瞭だ.そこからは杉林がしばらく続く.途中,小さな杉の倒木帯も出て来るが,大変短く,クリアも容易だ.
いよいよ目的地に近づき,「安倍山系」で予告されていた最後の急坂に差し掛かった.坂の手前には,「林業作業中」と書かれた黄色いノボリ旗があり,横には林道が見える.なるほどここまで自動車で来ることができるのだ.林道の発達により登山道が使用されなくなり,道が荒れたり,廃道化してしまうことはよくあるが,もしかしたらこの「愛郷の路」も同様の運命を辿っているのかもしれない.もう少しルート上に展望があれば,人気が出るのかも知れないが…
笹と杉の真っ直ぐな急坂を上り終える当たりは,トラロープ,マーキングテープ,私製標識,官製標識,黄色い林業作業中ノボリ旗が集中しており,賑やかな場所だった.そしてその賑やかな場所を少し抜けた山道の脇に,ぽつんと,その標石はたたずんでいた.それが三等三角点「皆沢奥」の標石だった.どうやら着いたようだ.
実に無防備な標石で,周りが石などで囲まれておらず,国土地理院の「大事にしましょう」標柱もない.ただ設置した場所が安定しているためか,しっかりと直立不動している.ひょっとしたらヤブの中に標石を探さなければいけないかもしれないと思っていただけに,これで一仕事終わった感じがした.
標石のある大山へと続く広い山道の脇で1時間ほど休憩をとった.時間があれば大山まで行ってもいいかと思ったが,すでに時間切れだった.山頂気温は17度程度.風も吹かず,暑くも寒くもない.ちょうどいい感じ.ただハエを中心とした虫たちは,夏ほどではないものの,まだ活発だった.ハエが多いのは,周囲が笹薮のためだろう.しかしハエだけではなく,もっと厄介な虫もその中に混じっていた.
スズメバチだ.休憩していると3センチぐらいのスズメバチが飛来し,自分の座っている場所から1mぐらい前方の地面に着地した.観察していると,枯れ葉に取り付き,腰を縦に振っている.どうも獲物と勘違いして,毒針を刺しているようだ.あちこちの枯れ葉に対して同じことをしながら,どんどん自分の方に近づいてくる.自分はディートを身体に吹きかけているのだが,おかまいなしだ.
逃げるべきかと思ったのだが,試したいことがあった.彼女が30センチぐらいまで近づいてきた時に,手元にあったディートのスプレーを彼女に向かって噴射してみた.さてどうなるか?
効果はてきめん.ディートを噴射した方向とは真逆の方向に,まっすぐ,文字通り「一目散」に飛び去って行った.ディートにこれほどの効果があるとは考えてみたこともなかった.なぜならディートを身体に噴霧してあっても,山のハエたちの場合,お構いなしに取り付いてくるからだ.少なくともスズメバチに関しては,ディート直接噴霧による防御法はありだとこの時思った.
休憩後,やってきた道を辿って下山を開始したのだが,その途中でカモシカに出会った.実はこれで本日2頭目.上りの途中,付近を撮影している時に,1頭目に出会った.撮影に集中したていたためか,近くにカモシカがいたことに自分は気づかず,撮影が終わった時に,ようやく気づくことが出来た.さっそく手にしたカメラでカモシカも動画撮影しようと思ったのだが,少し体を動かした途端に,「キュン」といったような警戒音を発しながら,山道から斜面を駆け下り,見えなくなってしまった.残念.
今度は失敗しないぞ.カメラを準備し,身体はカモシカに向けずカメラだけを,カモシカに向けて撮影を開始した.カモシカは例によってこちらをガン見している.少し撮影しながら山道を前進したが,反応がないので,身体をカモシカに向けて近づいてみると,さすがに彼も逃げ出した.撮影は一応できたので,良しとしよう.
下山時には,再びスズメバチに遭遇した.今度もやはり一匹で,歩哨なのかホバリングしていた.先程の個体よりでかい.羽音も大きい.これまた撮影中だったので,スズメバチを発見したときには,すでに数十センチまで接近していた.スズメバチらしく全くの強気で,さらにこちらにどんどん近づいてくる.今度はこちらが急いで退散した.もっと身体にディートを噴霧しておくべきなのか?
下山エピソードの最後を飾るのは,ズッコケだ.実は今回の山行にはもう一つの目的があった.それは最近購入したアクションカメラ「RICOH WG-M1」の運用試験だ.50%引きだったが,さらにセールで500円ほど引くとのことで,思い切って購入した.購入理由はスペック上,マイナス10度でも動作する点に尽きる.今まで採用していたスマホカメラによる撮影には,山においては色々と限界や障害があった.特にこれから始まる冬山の撮影は,スマホではかなり厳しい.このカメラの運用試験の結果については,別投稿する予定.
カメラのテストとして,展望のある鉄塔付近の動画撮影を下山時に行ったのだが,撮影しながら鉄塔脇の坂を下っている時に,ズッコケてしまった.本日滑ったのは,このときだけ.御存知の通り,下山時の撮影は危険が伴う.まさにセオリー通りとなったことに,ちょっと笑いがこみ上げてきてしまった.
ほぼ計画通りに下山も完了し,帰宅.標高も高くなく,アップダウンも少なかったためか,終了後の身体の負担は比較的軽かった.ただいくつか気になることもあった.
上りの時に途中で,かかとが痛くなってしまった点.これは普段の街歩きで歩いてしまい,足を前に出しすぎていたためだ.上りの途中で痛みの原因に気づき,意識して歩き方を変えたため,その後はいたみはなくなり,マメもできなかった.平地ばかりを歩いていたので,歩き癖がついてしまったらしい.もう少し山の歩き方を癖付ける必要があるかもしれない.
もう一つは持久力.終了後の身体の負担も軽く,行動中のカロリー摂取も普段より少な目で,実際,終了後の体重もあまり減っていないことから,カロリー消費量はいつもよりかなり少なかったものと思われる.ただ山行中の小休止の入り方が,普段より細かく入っていた気がする.歩き方も関係しているのかもしれないが,もうちょっと身体を作った方が良いようにも思った.
私も10月21日に登りました。記事を読ませて頂き、分岐判断に戸惑うところは同感でした。三角点は、561.83mの三等大原村(一)にも立ち寄りました。赤沢分岐から少し先の場所で、下降する手前でした。
返信削除一度もずっこけませんでしたが、大原八幡神社へ下る所と、「ステップの切り方が浅」い岩は慎重になりました。
困った事に、持参した地形図が下山時に見当たらず、下りてからようやくズボン後ろポケットにある事が分かりました。自分に、ボケてるんじゃないぞと一喝しました。この件が一番情けなかったです。笑笑笑笑。
すでに山行後でしたが、詳細な記事は大変分かりやすく、頷きながら読ませて頂きました。感謝。
コメントありがとうございました.
返信削除三等大原村(一)の事は,すっかり忘れていました😊
すぐに見つかりましたでしょうか?
地形図をなくしたと勘違いされたとのことですが,その時は,さぞや驚かれたかと思います.
今回の場合,自分と同じルートを行かれたのでしたら,仮に地形図がなくしても,下山時に迷うことはめったにないとは思います.
ただ単独行の自分がもし,他の山で踏み跡が薄く標識の全くない長いバリエーションルートの山行中に,いつのまにか唯一の地形図を失くした事に気づいたらら,相当な精神的ショックを受けていたことでしょう.
「地形図遺失」のコメントを読んで,仮に自分がそのような山の山行中に地形図とコンパス(GPS)を失った場合,どのように対処すべきかについて,真剣に考えさせられました.
ちなみに自分の場合,雨具,ツエルト,ヘッデン,GPS,予備電池,非常食,予備の水,エマージェンシーシート,ファーストエイドキットは常に持参しています.
コメントを頂いて,気が引き締まりました.ありがとうございました.
今後も安全第一で単独行を続けていきたいと思います.
これからもお気をつけて,山を楽しんでくださいネ😊