★概要
- 日程:2016年6月3日
- 天候:晴れのち曇り,アツラ沢ノ頭山頂気温(9.8℃)
- コースタイム:
自宅発3:15→梅ケ島大橋着6:00→林道三郷線終点着7:30→アツラ沢ノ頭着12:00→休憩1.5時間→アツラ沢ノ頭発13:30→林道三郷線終点着16:30→梅ケ島大橋着17:30→自宅着19:15 - 総行動時間:16時間(自転車:3+2.5時間,山行:5.5+4時間)
- 休憩時間:2時間
- ルート:松浦理博「安倍山系 中」,アツラ沢ノ頭ルート⑥
★写真(259枚)
★動画(6本)
★ 感想
「喉が痛くて,顔が火照っているのはなぜだろう?」帰宅後,それを不思議に思った.しかし思い当たる節はあった.
今回は久々に長い時間,ヤブを漕いだのだった.おそらく笹薮を漕いだ時に,葉の上に乗っていた杉花粉を吸い込んだり,顔に塗りたくってしまったため,アレルギー反応を起こしたのだと思う.
今回のルートは予想以上の苦難の道となった.前回の金木荒ノ頭も厳しかったが,こちらはそれ以上だった.
不明瞭な林道終点,不明瞭な沢渡渉点,不明瞭な山道,大倒木帯に覆われた山道,ザレた斜面を登っての尾根取り付き,下山時に迷いやすい多重山稜や尾根筋,複数回に及ぶ笹薮の藪漕ぎ,ザレた細い急登,あるいは連続直急登,指導標類ゼロ等々…ルートだけでも様々な苦難があった.
しかし一番厳しかったのは,目標地点であった「アツラ沢ノ頭」が「単なる道端の杭」にすぎなかったことだろう…
…今回のルートでは,最初に湯の森から林道三郷線の終点を目指す.この林道歩きは普段のそれとは違い,意外にも楽しいものとなった.林道沿いの沢は岩をえぐったような深い渓谷のムードを持っていて,迫力があった.また周囲の樹相も一部杉林はあるものの広葉樹が多く,歩いていて気持ちが良い.水が豊富な山らしく,山側斜面には何ヶ所か水場が設けられており,先へ行くと小さな滝もあった.
しかしそのような楽しい気分は,林道終点らしき場所に到着すると一転した.この「らしき」というのは,その場所が実際の林道終点が異なっていたためだ.到着地点は,地形図の上では林道終点となっている.GPSでも確認した.しかし実際には,そこからさらに後方上に向かって林道が伸びていたのだ.
「安倍山系」のルート⑥では,「林道終点から石門を通り沢を渡る」となっている.ところが到着した林道終点らしき場所には,石門はもちろん,山道も見当たらない.
やむを得ず沢に降りて,沢遡行ができるか偵察してみたが,自分には突破できそうもなかった.そこでその場所を後にして,地形図にない林道の続きを歩いてみることにした.
本当の林道終点は,地形図上の林道終点から5分程度の場所にあった.ありがたいことに,その奥には沢に降りていくらしい細い山道あったため,とりあえずそこを行くことにした.
案の定,道は沢に下っていた.さらにありがたいことに,沢の中には渡渉にうってつけの石が並んでいる.最後の石に滑りそうになりながらも渡渉し,対岸に着いた.そこにはうっすらとした道らしきものがあったため,その道なりに進んでみる.すると,とんでもないものに出くわした.
今まで見たこともないような,大倒木帯だ.道はその倒木帯の中へと続いていた.ここでもはや,道なりに進むことは不可能となった.
そこで倒木帯を迂回するために,倒木帯右の沢沿いを少し歩いてみたが,倒木が厳しく断念.後退して,今度は沢沿いを下り,別の取り付きがないか山側斜面を探してみた.すると一風変わった場所に出た.
コンクリート製の橋の跡のようなものが沢の両岸にあった.橋の幅は2mぐらいあっただろうか.橋自体は崩落したのか既になかったが,その跡は向かい合わせになっており,対岸の橋の跡には,緑に覆われているものの道らしきものが続いているようだった.
周囲をさらに見回すと,その場所で2つの沢が合流し1つの沢になっていた.自分はやっと気づいた.ここが「安倍山系」のルート上にあるとされていた「二俣」なのだ.自分は「二俣」を地名と勘違いしていたのだが,「二俣」とは2つの沢が合流する場所の一般呼称だったのだ.
二俣についたことで,少なくともルートは間違っていないことになる.少し安堵した.しかし「安倍山系」に書かれていた二俣付近の取り付きは,あたりを探しても発見できなかった.
再び倒木帯の前に戻り,今度は倒木帯左端にルートを探ってみた.倒木は左から右へ倒れていたため,左は枝が少なく,突破しやすいように感じられた.
しばらく倒木をまたぎ越すと,倒木のないちょっとした平坦地に出た.そこから先はまだ厳しい倒木帯が続いていて,容易に突破できそうもない.左斜面は急傾斜の杉林になっており,ザレているが,尾根に取り付けそうだった.
そこで意を決して,そのザレた斜面をツヅラに上っていくことにした.慎重に斜面を登り,細い尾根に取り付く.地形図によれば,破線路はこの尾根を通っているはずだった.しかし取り付いた尾根上に道らしきものは見えなかった.とりあえず細い桧の立ち並ぶ尾根筋を辿ってみる.すると道らしきものに出たものの,それが道であるという確信は持てなかった.
自分の歩いている道らしきものが道であるとようやく確信できたのは,細い枯れ木に巻かれた白いテープを発見した時だった.テープの指し示す道は薄く細く,枯れ葉に覆われていたが,それでも頼もしく感じられた.
テープの横を過ぎ,急坂を登ると,今度は錆びた保安林標識が出てきた.それはこの道が,個人によって私的に踏まれた道ではなく,地形図上の破線ルート,公的な道であることを意味している.確実に破線ルート上に自分がいる証拠を得て,少し緊張がほぐれた.
ありがたいことに,急傾斜のその尾根道はツヅラになっていた.赤いテープが巻かれた樹木も次々に出てくる.「この調子ならば急坂は苦しいが,迷うことはないだろう」と思いながら,杉と桧に囲まれたツヅラ道を登っていった.
しかししばらく行くとツヅラ道は終わリ,直線的で急な上り坂へと変化した.ザレた地質の上に,人にあまり踏まれておらず,杉の枝や枯れ葉によって覆われているため,道は常に薄い.ただ破線路は細い尾根筋上にあるため,上りに関しては迷うことはなかった.
上り坂は永遠かと思うほどに続いた.道は平坦になることを拒んだ.しかも杉と桧に囲まれた尾根道には,気晴らしとなる展望も,心和ませる春らしい花もない.唯一,ギンリュウソウのみが,あちらこちらに虚ろな「花」を咲かせていた.が,その幽霊のような半透明の,白い首をうなだれた起立群は,自分を陰鬱な気持ちにするだけだった.
この破線ルートに指導標は一切ない.私的に巻かれたと思われるテープ類と保安林標識が指導標の代わりだ.しかし実は,一つだけ例外がある.はっきりとしたユニークなマーカーとなりえるもの,それは「本州製紙」の大きな看板だ.
この看板にようやくたどり着いた自分は,目的地についたわけでもないのに,ある種の達成感と安堵を強く感じた.正に大洋に浮かぶ孤島,ルート上の中継基地だった.下山時もここを目指して下ることになるだろう.看板に描かれた本州製紙のマーク,白い鳩の姿が目に焼き付いた.
倒木帯から登り始めて,ここまで既に2時間が経過していた.計画からの遅れはこの時点で明らかだった.果たしてこの先の道はどうなっているのか?道の状態によっては,途中撤退も考えなければならない.
「本州製紙」を後にして,再び杉と桧の尾根道を上る.「安倍山系」で予告されていた1m標柱も2本しっかり確認できた.GPSからも破線ルート上を進んでいるのは間違いなかった.まだ時々現れる赤テープもそれを肯定していた.しかしまもなく次の強敵が目の前に現れた.
細尾根の直急登だ.しかもザレている…
…まずは一服して,水を飲み,道を観察しながら作戦を練っていく.ありがたいことに,頼りになりそうな木が何本かあるので,そこをステップ代わりにして慎重に登ることにした.登り始めると,急登の上方では枝や枯れ葉が道を覆い,さらに歩きにくくなっていた.適当に休止を入れ,ルートを確認しながら上っていく.この細尾根はすぐに終わってくれてホッとしたのだが,その後も枯れ葉に覆われて滑りやすい急坂が続き,なかなか気を休ませてくれない.
やがて道の傾斜は緩やかになり,一つのピークを迎え,下り坂となった.このルートで初めて登場した下りだが,それと同時に笹が周囲に現れ始めた.嫌な予感がした.
コルに下り,登り返すと,背丈ほどの,ただし薄めの笹が道を覆っていた.いい気持ちではなかったが,藪漕ぎという程でもない.予感はとりあえず外れたようだ.道筋がはっきりしていることもありがたい.実際,もし藪漕ぎとなってしまったら,計画実行に致命傷を与えかねなかった.しかしこの後,果たして藪漕ぎなし済むのだろうか?そんな疑念が頭をよぎる.当然だ.行けるところまで行くだけだ.
やがて二重山稜が倒木帯とともに現れたが,そこは道なりに回避して歩いて行く.道は相変わらず杉と桧に囲まれ展望はなかったが,少しずつ広葉樹も入り混じってきた.急傾斜でもない.これが最後まで続くはずもないのだが,身体の疲れが少しずつ減っていくのはうれしかった.1160m峰をこうして超えて行った.
1160m峰を過ぎると再び下りとなり,また登り返す.その後も笹の多い山道が続いたが,しばらく行くと杉と桧はまばらとなり,広葉樹主体の尾根道へと変わっていった.これが傾斜のゆるい尾根道ならば,ある程度樹木を楽しむゆとりはあったのだろうが,今回は傾斜がきつくてそのようなゆとりはない.息を切らしながら忍耐の山行が続いた.そして…ついに恐れていた事態が発生した.道が自分を笹薮の中へと導いていく…
…まずは一服.水を飲む.そしてやや間を置いた後,意を決して笹薮の中に突入した.本格的な藪漕ぎは久しぶりだ.相変わらず笹は強い.つく,つかむ,ひっぱたく,ひっかく,引っ掛ける,押し返す,押し倒す.複合技も見事だが,目を狙った急所攻撃は巧みだ.メガネをかけていても,その横から見事に差し込んでくる.それでも道筋は足元ではっきりとしているのはありがたかった.ただこの戦いがいつまで続くのか,それによってどれだけ体力と時間を消耗するのか,それが不安だった.この薮がもし目的地辺りまで続いていれば,計画は完全に崩れ去ってしまう.それはヤブの中での退転,途中撤退を意味している.
ありがたいことに,笹薮は思っていたよりも長くは続かなかった.道筋も切れ目なく続いてくれる上に,赤テープもまだ所々に顔を出す.人を惑わす多重山稜も何度か現れたが,道はそれでも見えていた.
再びコルへと下って行くと,そこには「安倍山系」に書かれていた保安林標識があった.うれしかった.ルートは外れていなかったのだ.横に傾き,錆びきっていた保安林標識に元気をもらい,コルからの登り返しを開始する.
しばらくは細尾根や多重山稜があったが,目的地に近づくに連れて,尾根は広がり,次第に幅の広い広葉樹林の急斜面のようになった.こうなると道は薄いというより,無に等しい.大体の感じで,枯れ葉に覆われた滑りやすい斜面を上っていく.
やがて斜面は緩やかになり,ブナ林の中を散策する感じになっていった.自分の気持も徐々に凪いでいくのがわかった.目的地「アツラ沢ノ頭」の気配を肌で感じた.赤テープは律儀に,所々にまだ巻かれている.それをたどっていくと林はついに終わり,県民の森の明るい遊歩道に出た.
遊歩道は比較的幅が広く,歩きやすいようにきれいに整地されていた.極めて緩やかな坂には,公園でよく見かける丸太階段すら置かれていた.戦いは終わったのだ.しかし自分は,今までの激しい山行とのギャップに吐き気のような違和感を覚えた.確かに気持ちの良い森で,鬱蒼とした感じもない.しかしこの現在の歩行は「山行」とは言えなかった.おそらく「散策」でもない.「散歩」という言葉が一番似合っている.
アツラ沢ノ頭は,この遊歩道上にあるはずだった.とりあえずあまりにも歩きやすいその遊歩道を道なりに歩いた.しばらく行くと右手に東屋が見えた.休憩の候補地としてそれを覚える.
やがて何の前触れもなくそれは現れた.遊歩道の道端に,「アツラ沢ノ頭」と書かれた看板とその左横に三角点標石.以上終わり.これがすべてだ.
「アツラ沢ノ頭」.それは今や,山頂(ピーク)といったものではない.言うなれば,道端に付けられた「地名」「アダ名」だった.信号機の横によく見かける便宜上設けられた地名のようなものだった.それ以上でもそれ以下でもない.
さすがに「やられた」という思いがした.三角点標石はたしかにそこに間違いなくあった.あったのだが,それは今まで自分が見てきたそれとは全く別のものだった.いつも山頂の三角点標石に感じている,大自然の中の希少異物=人工物という趣が全くなかったのだ.
確かに今までの三角点標石との出会いは,大自然の中で決して会うはずのない「ヒト」という生物と出くわしてしまったかのような,発見の不思議な喜びがあった.しかし人工的に整備された県民の森遊歩道において,その標石は単なる遊歩道の付属物に成り下がっており,自分になんらの感動を呼び覚ますものはなかった.
その意外性に軽いショックを受けたが,先ほどの東屋を思い出し,すぐにそちらに歩を進めた.目の前の三角点標石よりも,屋根のある東屋のほうがずっと価値が有るように,その時は思えたのだった.
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