2016年6月27日月曜日

八草→智者山(1291m)→天狗石山(1366m)縦走

★追記(2016/9/29)

本投稿本文中に,『智者山と天狗石山は,松浦理博「安倍山系(三分冊)」に掲載されていない』という記述があるが,実際には記述があったため,お詫びするとともに訂正させていただく.

智者山までのルートは,松浦理博「安倍山系 下」の智者山ルート①.智者山から天狗石山までのルートは,上掲書の智者山ルート⑦に天狗石山ルート①を加えたものとなる.

本文中に,未知の山として記載した「猿見石山(116m)」についても上掲書に掲載されており,天狗石山から猿見石山までのルートも,天狗石山ルート⑧として記載されている.

★概要

  • 日程:2016年6月27日
  • 天候:晴れ,天狗石山山頂気温: 20.3℃
  • コースタイム
    自宅発3:15→湯島大橋着5:45→八草登山口着7:15→智者山着10:15→休憩15分→智者山発10:30→天狗石山着11:30→休憩1.5時間→天狗石山発13:00→反射板着13:10→八草登山口着15:00→地元の方との会話30分→湯島大橋着16:40→休憩10分→湯島大橋発16:50→自宅着18:50
  • 総行動時間:13時間(自転車:2.5+2時間,山行:5.5+3時間) 
  • 休憩時間:2.5時間
  • ルート:奥藁科山歩きマップ,八草登山口→智者山→天狗石山→反射板→八草登山口

★写真(317枚)

★動画(12本)

★ 感想

今までの自分の山行は,松浦理博「安倍山系(三分冊)」に基づいて計画してきたが,今回は番外編として,それらに掲載されていない山を目指す.

前回登った益田山と七ツ峰.その登山口にあった「奥藁科山歩きマップ」には,「安倍山系」には掲載されていない「天狗石山」と「智者山」の位置とCTが記されており,自分の興味を引いた.

七ツ峰山行の経験から,おそらくこの2つの山へのルートも,七ツ峰と同じく標識がたくさんあり,危険箇所など殆ど無いはずだ.だとすれば,手元にルートに関する資料がなくとも,迷うことなく目的を達成できるだろう.

またマップに記されていたCTから,この山行には,ほぼ七ツ峰と同様の所要時間がかかると推測された.ネットでさらに情報を集めてみたところ,その推測はほぼ裏付けられた.八草登山口から登るルートに関する情報はなかったが,おそらく問題はないだろう.そう思い,前回同様の計画を立て,梅雨の合間を縫うようにして出立した.

行きの自転車行のルートは 前回と全く同じで,疲労の具合も全く変わらず,やはりきつく感じた.しかしながら少しだけ前回と変わったことが起こった.その第1は,車道に転がっていたタヌキの死骸に出くわしたこと.おそらく夜中に道を横切ろうとして,車に轢かれたのだと思う.タヌキの死骸に出くわすのは,これで2回めだ.

実はその後,タヌキにはもう一度出会った.今度は生きたタヌキで,早朝の人気のない南アルプス公園線を横切っているところだった.ちょっとほっそりとした個体だった.どことなくのんびりとした歩き方だったので,生物種としてやはり車に轢かれやすいのかもしれない.

 次に車道で出会ったのは,トビ(ワシ?)とカラスだった.場所は湯ノ島温泉近辺だ.前方に2羽の鳥がいたのが見えた.一羽は明らかにカラスだが,もう一羽はカラスよりも一回り大きく,しかも羽が明るい茶色をしていた.その大きな鳥は,2mぐらい離れてじっとしていたカラスを見つめていた.カラスは逃げるわけでもない.膠着状態なのか?

自転車が近づいていくと,まずその大きな鳥のほうが飛び立ち,藁科川の上を自分の後方へと飛んでいった.自分は自転車を止めて,その飛翔を追ってしばらく眺めていた.その大きな翼の羽ばたきは,ゆったりとしていて,しかも羽の後方がやわらかな感じがする.いつも見ているトビのような,忙しい羽ばたき方ではなかったため,もしかしたらワシではないかとその時思った.大きな鳥が飛び去った後,カラスも飛び去っていった.

湯島大橋の近くまで来ると,車道の真ん中に今度は焦げ茶色の大きな鳥がいた.こちらは鷹だったのかもしれない.自分が接近すると羽ばたいて,飛んでいってしまった.その後も動物との出会いは続くことになる.

湯島大橋に到着すると,そこからは八草に向かうため徒歩で林道を行く.その途中の道沿いの山側斜面に小さな 堰堤があり,少しだけ水が流れていた.その前に二頭のシカがいた.水を飲んでいたのかもしれない.自分の接近に気づいたシカたちは,白いおしりを見せながら,林道の坂をすごい勢いで駆け上がっていった.相変わらずの素晴らしい運動能力に自分は舌を巻いた.

そこからさらに林道をひたすらに上がっていくと,途中の分岐で指導標を発見した.オマケにその横には、篤志家による案内図まであった.安心して,その指示通りに林道を歩いて行く.

結局,1.5時間ほど車道を歩いて八草登山口に到着.予想通り,そこには大きな「奥藁科山歩きマップ」があった.これなら登山道にもいっぱい標識はあるだろう.



その場で少し休憩してから山道に入る.するとわずか数mでいきなり分岐となって,戸惑った. どうやらどちらかが前方に見える民家の生活道らしかった.できたら民家の敷地に入りたくなかったが判断できず,とりあえずわかりやすい民家へ向かいそうな道を選んだ.


案の定,道は民家の前に続いていた.どうやらその先は,民家の敷地内を歩かねばならないようだ.今までにも民家の敷地内に登山道が通っている例はあったが,いつもながら気が引ける.しかし他に登山道らしきものは見当たらないので,そのまま直進し敷地内に入った.

民家のドアの横を通り過ぎる時,ドアの外側からダイアル式の南京錠がかかっていることに気づいた.どうやらこの家は空き家らしい.そう言えば先ほど車道にあった篤志家作成の案内図には,「八草(廃村)」と記されていた.ガセかと思ったのだが,どうやらその情報に間違いはないようだ.下山時に地元の方と話をしたが,やはり八草は廃村との事だった.

空き家の前を通りすぎて山道に入る.標識やテープに導かれながら,その登山道を登っていったのだが,予想以上に道は荒れていた.人があまり歩いていない感じがする.思えば八草登山口に至るまでの道の一部が,落石に覆われていた.一般的に八草登山口までは車で来る登山者が多いと思われるが,あれでは車が通るのは難しいかもしれない.となるとこのルートから登る登山者は,現在では稀なのかもしれない.

枯れ葉が厚く堆積した荒れた道は歩きにくいだけでなく,体力をも消耗する.そのためなのだろうか,一部では道が2本並行していた.適当に歩きやすい道を選びながら上っていく.

小展望地を通り過ぎて,しばらく行くと意外な標識が現れた.

「*→」

なんと水場の標識だ.奥藁科山歩きマップには,このルートに水場があるとは記されていなかった.今回携行している水は3.5リッターで,真夏体制より0.5リッター少ない.やや水不足が心配だったが,水場があるのならば安心だ…

…いやいや,そんなことよりも,水場があることがわかっていれば,これほどの水を運び上げる必要はなかったということじゃないのか…

…ちょっと損をした気になったが,「これもトレーニングの一環」と自分を納得させた.

道なりに歩いて行くと丸太橋とともにその水場が現れた.それは小さなワサビ田跡だった.近くにCTの記された官製標識もある.虫も思ったより少なく,心配されたヒルもいないようだった.休憩にはうってつけの場所だったが,先を急いでそこは通り過ぎることにした.

水場の直後に伐採地が現れた.少しだが展望もある.ご丁寧に伐採地にも官製標識が立っているため, 道迷いはない.ただむき出しの斜面の一部から,沢のように水が流れ出ている場所があり,登山道をひどくぬかるませていた.靴内部への浸水に注意して進んでいく.

伐採地を抜けると再び林の中に入ったが,そこには私製の標識があり,近道が記されていた.ちょっとした誘惑に駆られたものの,安全第一でそのまま公式ルートを行くことにした.

さらに歩いて林道を横切ると,今度は鬱蒼とした薄暗い檜林に入った.この林の中にも官製標識はちゃんとあったのだが,登山道から作業道が何本も伸びているので,引き込みには注意が必要だ.

薄暗い檜林を抜けると,開けた小さな平坦地に出た.すぐ先に林道も見える.どうやら奥藁科山歩きマップに「眺望良し」と記されたいた場所のようだった.ここで少し撮影をしたのだが,嫌な虫の襲来を受けた.大きな黄色いアブだ.自分の汗に誘われたのか,執拗に足元に取り付いてくる.撮影はそこそこに切り上げて,先を急ぐことにした.

平坦地から林道を道なりに数100m歩くと,林道からの登山口についた.ここで休憩を取りつつ,虫対策として森林香を焚く.

登山口からは重機も入れるほどの広い作業道を歩いて行く.するとすぐに太めの檜の幹に,「登山道→」と赤ペンキで力強く書かれた大きな文字が,自分の目に飛び込んできた.その先には丸太階段も見える.指示通りに階段を登っていったが,結局すぐに作業道に合流し,戻されてしまった.登山者が作業のじゃまにならないように作られたバイパス道なのだろうか?


作業道の次は,檜林の中を延々と上っていく山道だ.ここから山頂までは,官製標識と木に塗られた赤ペンキがガイドとなった.

檜林がようやく終わり,広葉樹林帯に入ったしばらくすると,ついに智者山への分岐点に出た.ここからは,天狗石山へのルートをいったん離れて,智者山山頂への分岐ルートを行くことになる.

智者山山頂には,そこからすぐに到着した(CT:5分).広葉樹を主体とした林の中にある平坦な山頂で,風通しも良く,少しだが眺望もある.ありがたいことに丸太を四角形に組んだベンチすらあった.虫も少なめで,気持ちの良い場所だ.

この時,時計は10:15を示していた.自分はこの山頂がかなり気に入ったので,本日はここで終わりにしようかと本気に思った程だった.そう思った理由は実はもう一つある.

標高が1291mと,普段登る山よりも低めであるにもかかわらず,疲労感がかなりあったためだ.ただこの時点では,計画ギリギリで天狗石山山頂には間に合うはずだった.自分は決断を迫られた.

休憩を取りながら漠然と思いを巡らせたが,結局,智者山山頂では,15分ほど休憩し.そのまま天狗石山に向かうことにした.面白いことに,(またこれはよくある事なのかもしれないが)疲労感そのものが,自分を先へと進ませた.もしここで撤退したら,天狗石山には再び同じルートで登ることになり.この疲労感をもう一度味わうことになる.それが嫌だったのだ.その時には,「この近辺の山々は本日で終わりにしたい」という思いが確かにあった.

智者山山頂から先ほどの分岐点まで下り、そこから尾根道を歩いて行く.尾根は広いが,道がはっきりしている上に,樹の幹に塗られた派手な赤ペンキがずっとガイドしてくれるため迷いはない.アップダウンも少なく,展望こそないが広葉樹の中を気持よく歩いていくことが出来た.

 1時間近く歩いたところで,天狗石山という名前の由来となった「天狗石」への分岐に出た.天狗石をみるためには,尾根から少し下る必要があり,標識には+5分のロスと書かれていた.少々迷ったがせっかくなので「天狗石」を確認してみることにした.

山腹の道をしばらく歩くと,官製の説明板とともに,コケで覆われた天狗石群が斜面に現れた.すでにネットで写真は見ていたのだが,大体イメージ通りの石群だった.昔の人には,これらの石の存在が不思議に思われたのだろう.ただ自分は今までの山行において,これよりも規模の大きな同様の場所をいくつか知っていたため,写真を撮るとすぐにそこを後にして,山頂に向かった,

10分ほど登ると天狗石山山頂に出た.展望はなく,広葉樹の中にそれはあった.ありがたいことに,山頂にあった三等三角点標石の手前に,コンクリ製のベンチが備えられていた.早速それを使わせてもらい,休憩をとった.


天狗石山山頂はやはり虫が多い.植生のためなのか,コバエよりもアブのほうが多かった.尺取り虫も多く,ザックやポーチによじ登ってくる.セミもけたたましく絶え間なく鳴いている.山頂の気温は20度ほどだったが,風が吹いているため,汗が冷えて寒く感じた.例によって雨具を取り出し,防寒する.

山頂で1.5時間休憩したのだが,今回は都合により,睡眠時間が1~2時間ほどだったため,うつらうつらベンチに座りながら居眠りをしてしまった.標高の割に疲労感が強かったのは,この睡眠不足のためだったのかもしれない.

休憩後,下山を開始する.この山頂近くには展望地があるので、そこを経由することにした.展望地までの道も,赤ペンキと標識が引き続きガイドをしてくれる.

その展望地は,反射板の設置されていた場所にあった.残念ながら思ったより,展望は開けていなかった.反射板によって展望が遮られている部分も多いような気もする.ただしこの展望地への道は,ここで終わってはいなかった.


標識が立っていた.「猿見石山」という自分の知らない山に続く道らしい.その山までの距離はわからないが,今回のように智者山を経由せず,天狗石山直登ルートを登れば,自分も猿見石山に行くことができるかもしれない.果たしてそれだけの価値がある山なのか?

下山後,林道を歩いている時に刈払をしていた地元の方に出くわし,30分ほど立ち話をした.やはり限界集落ということで,過疎は深刻のようだ.茶畑で生計を立てていくことも難しくなってしまった今,山で生きていくためには何か新しい地場産業が必要なのかもしれない.人影の消えた八草を後にして,少しうら寂しい思いがした.

2016年6月17日金曜日

楢尾→益田山(1320m越)→七ツ峰(1533m)縦走

★概要

  • 日程:2016年6月17日
  • 天候:晴れ,七ツ峰山頂気温(21.8度)
  • コースタイム
    自宅発3:00→湯島大橋着5:30→調整・検討10分→楢尾(偽)登山口着7:10→休憩10分→楢尾(偽)登山口発7:20→天狗石岳・楢尾・七ツ峰 分岐点着9:20→益田山着9:50→七ツ峰着11:20→休憩1.5時間→七ツ峰発13:00→楢尾(正規)登山口着15:00→湯島大橋着 16:15→湯島大橋発16:30→自宅着18:15
  • 総行動時間:13.5時間(自転車:2.5+2時間,山行:6+3時間)
  • 休憩時間:2時間
  • ルート:松浦理博「安倍山系 中」,七ツ峰ルート⑨

★写真(297枚)

★動画(10本)

★ 感想

今回選んだルート⑨は,国土地理院の地図上では,いわゆる破線ルートだった.それは道なき道である可能性を意味しているため,それなりの覚悟が必要となるのは言うまでもない.途中撤退もありえる.

そのような覚悟で臨んだ今回の山行だが,実際に現地を歩いてみて驚いた.事実上,それは破線路などではなく,極めて整備された「登山道」だったのだ…

…今回の山行は2週間ぶりとなるため,破線路云々よりも体力面が心配だった.特に天気予報では,最高気温は33度ほどになるという.しかも前日は雨で山道は滑りやすい状態と考えられる上に,湿度は相当高くなるだろう.つまり水の問題が発生する.

「安倍山系」によれば,このルートには水場がない.そこで一応,真夏体制に近い4リッターを持参した.結果的には約0.5リッター不足し,帰路において公園で水を補給することになった.

自転車行は久々に藁科川沿いを遡上する.一度夕暮山に登った時,走ったことのある南アルプス公園線だ.その時もしんどく感じたのだが,今回も同様だ.たぶんアップダウンが多いためだろう.

自転車行の途中,初めて湯ノ島温泉の前を通過した.湯ノ島の温泉施設は静岡市営で,おそらく安く入浴することができる.うまくやれば下山後に入浴するという贅沢も可能なのだろうが,自分にはそんな経済的余裕も時間的ゆとりもない.今後もそれは変わらないだろう.


自転車が湯島大橋の前まで来た時,自分はそれを渡ってしまった.ルートと自転車駐車予定の場所は,事前にGoogleストリートビューで確認していたのだが,頭に入っていなかったようだ.橋を渡ったところで,ルートを確認しようとして,タブレットを出したのだが,高湿度のためなのか,タップがうまくいかず,まともに地図を動かせない.おまけに事前キャッシュしておいたはずの地図データがすっ飛んでいた.やむを得ず,スマホでテザリングを行い,地形図をダウンロードした.

結局,橋の手前まで戻り,路肩に自転車を止めて林道歩きを開始した.あいかわらず林道の硬い道はトレッキングシューズには厳しい.足の裏が痛くなる.インナーソールを変えるなど,何らかの対策が必要なのかもしれない.

林道を歩いて行くと展望の開けた場所に出た.茶畑のある楢尾の集落あたりだ.そこで展望の動画を撮影していると,背中から声がかかった.「ずいぶんと早いねぇ」

民家の庭先で朝の支度をしているおばちゃんだった.「おはようございます」と挨拶した声は動画に記録されている.確かに早かったかもしれない.楢尾登山口から七ツ峰までのCTは2時間半となっている.この時点では朝の6時半ごろだから,確かに登山者としてはかなりの早出ということになるのだろう.

林道を更に行くと集落が終わり,山の中に入っていった.驚いたことに山の一部が平坦化され,ソーラー発電所になっていた.集落の電気を発電しているのだろうか?驚いたのは,それだけではない.

やがて登山口の目印となる最初の分岐点が近づいてきたのだが,その時自分は目を疑った.分岐点に立っているのは明らかに,登山者のための指導標識だったのだ.しかもそれは私製の手作り標識ではない.東海自然歩道でよく見かけるタイプ,金をかけて作られたしっかりとした活字の標識,それがその分岐点に,妙な違和感を放ちながら立っていたのだ.破線ルートはガセネタだったのか?


「これはもしかしたら楽勝ではないのか?」登山口までの距離まで示されているその標識を写真に撮りながら自分はそう思った.しかしその後自分はミスを犯した.正規登山口前に尾根に取り付けそうな作業道があり,それを登山口と勘違いしたのだ.破線ルートであれば,そのような標識のない登山口は当たり前なのだが,今考えて見ればあれだけしっかりとした標識が林道分岐点にありながら,登山口に標識がないのはおかしな話だ.

それに気づかず一服して体制を整えたあと,その作業道から登り始めたのだが,すぐに道は行き止まりになった.やむを得ず引き返し,途中の安全そうな斜面を登り尾根に取り付いてみる.案の定,立派な登山道がそこにはあった.

そこからは杉林の尾根道を延々と歩いて行く.標識は次々現れた.私製,静岡県山岳遭難防止対策協議会,奥藁科大川,静岡市教育委員会,南アルプス奥大井自然公園運営協議会と至れり尽くせりだ.標識だけでなく,テープやマーキングのペンキも頻出する.ちょっと異常な感じすらした.もしかしたらかつて遭難騒ぎがあったのだろうか?

道もほぼ一本道で迷いようもなさそうだった.そのため気持ちにゆとりが生まれたのだが,残念ながらほぼ杉林であるため,花も木も楽しむことが出来ない.山行前半はちょっとダレた感じになってしまった.

ただ,杉林を漂っていた,前日の雨によって発生したガスが,時折強く斜めに射しこむ朝日によって美しく輝く光景は素晴らしかった.何枚か写真を撮り,動画を撮影したが,朝日はすぐに隠れてしまうため,なかなか良い写真は撮ることが出来なかったが…



やがて伐採地に出た.この時点ではガスのため展望はなかったのだが,下山時は遠くの山々まで展望が開けていた.自分はしていないが,ここで小休止するのも悪くないように思う.虫も少なかったように記憶する.

伐採地から再び林の中に戻ってしばらく歩くと,やや注意すべき場所に出た.今回の道はよく整備されているのだが,3ヶ所注意すべき場所がある.ここはその一つ目の,細くザレた山道だ.杉の木材で道を支えているのだが,斜面からの土砂が道をおおっている部分がある.ここはさすがに慎重に通過した.

そこを抜けてしばらく歩くと,主稜線に達した.もちろん親切な標識もそこには立っている.標識どおりに広葉樹と針葉樹の混じった林の中を尾根伝いに歩いていく.天気も良いので,比較的尾根は明るいが,針葉樹が混じっているためか,身延山地の尾根筋のような明るさはない.それでも杉林よりずっと快適だ.

分岐点から益田山(1320m)山頂にはすぐについたが,展望はない.山頂は平坦で比較的広いので,大人数の休憩には向いているのかもしれない.山頂撮影のあと,すぐに七ツ峰に向かう.


相変わらず道筋ははっきりしているので迷うことはない.標識やテープ類もたくさん出てくる.一部,低い灌木に道が覆われていたが,その距離も短く歩行に支障が出るほどではなかった.

ところがしばらく歩くと奇妙な人工物に出くわした.山道に埋め込まれた鉄製ワイヤーだ.足を引っ掛けんばかりに半ループ状に地面から突出している.なぜこんなところにワイヤーが埋め込まれているのか不明だが,登山者が足を引っ掛ける可能性は十分にある.もちろん篤志家が赤いリボンを付けて山行者の注意を促しているのだが,話をしながら歩いていたりするとあぶない.ワイヤーは3ヶ所ぐらい合ったと思う.これが2つ目の注意ヶ所.

そこからしばらく歩いて行くと,ついに3つ目の注意する場所,すなわち直急登が始まった.これが自分にはなかなか手ごわかった.山頂手前であるため疲れの蓄積や暑さもあったのだろうが,この急登に随分と時間をとられてしまった.さらには下山時に,この急登で2回ほど滑ってしまった.雨上がりの下りでは特に要注意だ.

ありがたいことに,この急登の途中には少し展望のきく場所がある.息を切らしながら,休憩がてら眺望を撮影をした.


この急登が終わるとすぐに七ツ峰(1533m)山頂着となる.山頂に展望は思ったほどはなかった.木々の枝が伸びて隠してしまったせいかもしれない.天気が良ければ見えるとされていた富士山や駿河湾は,雲で見ることができなかった.ただ長島ダムによって作られた「接岨湖」は見ることが出来たようだ.「ようだ」と言ったのはその時は,湖を見た認識がなく,帰宅後写真や動画に映っていたのに気づいたため.

山頂は比較的風があり,案の定,ハエを中心として虫が多かった.大きなアリも大活躍して,ザックに次々よじ登ってくる.森林香とディートで防虫対策をすると,ある程度虫達も遠慮してくれた.さらに帽子の上から防虫ネットを被ると,そこそこ快適になる.

気温は21.8度とほぼ予想通りの暑さだったが,木陰があり,また風も吹いてくれたため,ジトッとした暑さでは無かった.自分は静かなムードが好きなのだが,虫の襲来とセミらしきものが鳴き声がちょっと大きくてうるさく感じられた.

2016年6月3日金曜日

湯の森→アツラ沢ノ頭(1513m)

★概要

  • 日程:2016年6月3日
  • 天候:晴れのち曇り,アツラ沢ノ頭山頂気温(9.8℃)
  • コースタイム
    自宅発3:15→梅ケ島大橋着6:00→林道三郷線終点着7:30→アツラ沢ノ頭着12:00→休憩1.5時間→アツラ沢ノ頭発13:30→林道三郷線終点着16:30→梅ケ島大橋着17:30→自宅着19:15
  • 総行動時間:16時間(自転車:3+2.5時間,山行:5.5+4時間)
  • 休憩時間:2時間
  • ルート:松浦理博「安倍山系 中」,アツラ沢ノ頭ルート⑥

★写真(259枚)

★動画(6本)

★ 感想


「喉が痛くて,顔が火照っているのはなぜだろう?」帰宅後,それを不思議に思った.しかし思い当たる節はあった.

今回は久々に長い時間,ヤブを漕いだのだった.おそらく笹薮を漕いだ時に,葉の上に乗っていた杉花粉を吸い込んだり,顔に塗りたくってしまったため,アレルギー反応を起こしたのだと思う.

今回のルートは予想以上の苦難の道となった.前回の金木荒ノ頭も厳しかったが,こちらはそれ以上だった.

不明瞭な林道終点,不明瞭な沢渡渉点,不明瞭な山道,大倒木帯に覆われた山道,ザレた斜面を登っての尾根取り付き,下山時に迷いやすい多重山稜や尾根筋,複数回に及ぶ笹薮の藪漕ぎ,ザレた細い急登,あるいは連続直急登,指導標類ゼロ等々…ルートだけでも様々な苦難があった.

しかし一番厳しかったのは,目標地点であった「アツラ沢ノ頭」が「単なる道端の杭」にすぎなかったことだろう…

…今回のルートでは,最初に湯の森から林道三郷線の終点を目指す.この林道歩きは普段のそれとは違い,意外にも楽しいものとなった.林道沿いの沢は岩をえぐったような深い渓谷のムードを持っていて,迫力があった.また周囲の樹相も一部杉林はあるものの広葉樹が多く,歩いていて気持ちが良い.水が豊富な山らしく,山側斜面には何ヶ所か水場が設けられており,先へ行くと小さな滝もあった.

しかしそのような楽しい気分は,林道終点らしき場所に到着すると一転した.この「らしき」というのは,その場所が実際の林道終点が異なっていたためだ.到着地点は,地形図の上では林道終点となっている.GPSでも確認した.しかし実際には,そこからさらに後方上に向かって林道が伸びていたのだ.

「安倍山系」のルート⑥では,「林道終点から石門を通り沢を渡る」となっている.ところが到着した林道終点らしき場所には,石門はもちろん,山道も見当たらない.


やむを得ず沢に降りて,沢遡行ができるか偵察してみたが,自分には突破できそうもなかった.そこでその場所を後にして,地形図にない林道の続きを歩いてみることにした.

本当の林道終点は,地形図上の林道終点から5分程度の場所にあった.ありがたいことに,その奥には沢に降りていくらしい細い山道あったため,とりあえずそこを行くことにした.

案の定,道は沢に下っていた.さらにありがたいことに,沢の中には渡渉にうってつけの石が並んでいる.最後の石に滑りそうになりながらも渡渉し,対岸に着いた.そこにはうっすらとした道らしきものがあったため,その道なりに進んでみる.すると,とんでもないものに出くわした.



今まで見たこともないような,大倒木帯だ.道はその倒木帯の中へと続いていた.ここでもはや,道なりに進むことは不可能となった.

そこで倒木帯を迂回するために,倒木帯右の沢沿いを少し歩いてみたが,倒木が厳しく断念.後退して,今度は沢沿いを下り,別の取り付きがないか山側斜面を探してみた.すると一風変わった場所に出た.

コンクリート製の橋の跡のようなものが沢の両岸にあった.橋の幅は2mぐらいあっただろうか.橋自体は崩落したのか既になかったが,その跡は向かい合わせになっており,対岸の橋の跡には,緑に覆われているものの道らしきものが続いているようだった.

周囲をさらに見回すと,その場所で2つの沢が合流し1つの沢になっていた.自分はやっと気づいた.ここが「安倍山系」のルート上にあるとされていた「二俣」なのだ.自分は「二俣」を地名と勘違いしていたのだが,「二俣」とは2つの沢が合流する場所の一般呼称だったのだ.

二俣についたことで,少なくともルートは間違っていないことになる.少し安堵した.しかし「安倍山系」に書かれていた二俣付近の取り付きは,あたりを探しても発見できなかった.

再び倒木帯の前に戻り,今度は倒木帯左端にルートを探ってみた.倒木は左から右へ倒れていたため,左は枝が少なく,突破しやすいように感じられた.

しばらく倒木をまたぎ越すと,倒木のないちょっとした平坦地に出た.そこから先はまだ厳しい倒木帯が続いていて,容易に突破できそうもない.左斜面は急傾斜の杉林になっており,ザレているが,尾根に取り付けそうだった.



そこで意を決して,そのザレた斜面をツヅラに上っていくことにした.慎重に斜面を登り,細い尾根に取り付く.地形図によれば,破線路はこの尾根を通っているはずだった.しかし取り付いた尾根上に道らしきものは見えなかった.とりあえず細い桧の立ち並ぶ尾根筋を辿ってみる.すると道らしきものに出たものの,それが道であるという確信は持てなかった.

自分の歩いている道らしきものが道であるとようやく確信できたのは,細い枯れ木に巻かれた白いテープを発見した時だった.テープの指し示す道は薄く細く,枯れ葉に覆われていたが,それでも頼もしく感じられた.

テープの横を過ぎ,急坂を登ると,今度は錆びた保安林標識が出てきた.それはこの道が,個人によって私的に踏まれた道ではなく,地形図上の破線ルート,公的な道であることを意味している.確実に破線ルート上に自分がいる証拠を得て,少し緊張がほぐれた.

ありがたいことに,急傾斜のその尾根道はツヅラになっていた.赤いテープが巻かれた樹木も次々に出てくる.「この調子ならば急坂は苦しいが,迷うことはないだろう」と思いながら,杉と桧に囲まれたツヅラ道を登っていった.

しかししばらく行くとツヅラ道は終わリ,直線的で急な上り坂へと変化した.ザレた地質の上に,人にあまり踏まれておらず,杉の枝や枯れ葉によって覆われているため,道は常に薄い.ただ破線路は細い尾根筋上にあるため,上りに関しては迷うことはなかった.

上り坂は永遠かと思うほどに続いた.道は平坦になることを拒んだ.しかも杉と桧に囲まれた尾根道には,気晴らしとなる展望も,心和ませる春らしい花もない.唯一,ギンリュウソウのみが,あちらこちらに虚ろな「花」を咲かせていた.が,その幽霊のような半透明の,白い首をうなだれた起立群は,自分を陰鬱な気持ちにするだけだった.


この破線ルートに指導標は一切ない.私的に巻かれたと思われるテープ類と保安林標識が指導標の代わりだ.しかし実は,一つだけ例外がある.はっきりとしたユニークなマーカーとなりえるもの,それは「本州製紙」の大きな看板だ.



この看板にようやくたどり着いた自分は,目的地についたわけでもないのに,ある種の達成感と安堵を強く感じた.正に大洋に浮かぶ孤島,ルート上の中継基地だった.下山時もここを目指して下ることになるだろう.看板に描かれた本州製紙のマーク,白い鳩の姿が目に焼き付いた.

倒木帯から登り始めて,ここまで既に2時間が経過していた.計画からの遅れはこの時点で明らかだった.果たしてこの先の道はどうなっているのか?道の状態によっては,途中撤退も考えなければならない.

「本州製紙」を後にして,再び杉と桧の尾根道を上る.「安倍山系」で予告されていた1m標柱も2本しっかり確認できた.GPSからも破線ルート上を進んでいるのは間違いなかった.まだ時々現れる赤テープもそれを肯定していた.しかしまもなく次の強敵が目の前に現れた.


細尾根の直急登だ.しかもザレている…

…まずは一服して,水を飲み,道を観察しながら作戦を練っていく.ありがたいことに,頼りになりそうな木が何本かあるので,そこをステップ代わりにして慎重に登ることにした.登り始めると,急登の上方では枝や枯れ葉が道を覆い,さらに歩きにくくなっていた.適当に休止を入れ,ルートを確認しながら上っていく.この細尾根はすぐに終わってくれてホッとしたのだが,その後も枯れ葉に覆われて滑りやすい急坂が続き,なかなか気を休ませてくれない.

やがて道の傾斜は緩やかになり,一つのピークを迎え,下り坂となった.このルートで初めて登場した下りだが,それと同時に笹が周囲に現れ始めた.嫌な予感がした.

コルに下り,登り返すと,背丈ほどの,ただし薄めの笹が道を覆っていた.いい気持ちではなかったが,藪漕ぎという程でもない.予感はとりあえず外れたようだ.道筋がはっきりしていることもありがたい.実際,もし藪漕ぎとなってしまったら,計画実行に致命傷を与えかねなかった.しかしこの後,果たして藪漕ぎなし済むのだろうか?そんな疑念が頭をよぎる.当然だ.行けるところまで行くだけだ.

やがて二重山稜が倒木帯とともに現れたが,そこは道なりに回避して歩いて行く.道は相変わらず杉と桧に囲まれ展望はなかったが,少しずつ広葉樹も入り混じってきた.急傾斜でもない.これが最後まで続くはずもないのだが,身体の疲れが少しずつ減っていくのはうれしかった.1160m峰をこうして超えて行った.

1160m峰を過ぎると再び下りとなり,また登り返す.その後も笹の多い山道が続いたが,しばらく行くと杉と桧はまばらとなり,広葉樹主体の尾根道へと変わっていった.これが傾斜のゆるい尾根道ならば,ある程度樹木を楽しむゆとりはあったのだろうが,今回は傾斜がきつくてそのようなゆとりはない.息を切らしながら忍耐の山行が続いた.そして…ついに恐れていた事態が発生した.道が自分を笹薮の中へと導いていく…


…まずは一服.水を飲む.そしてやや間を置いた後,意を決して笹薮の中に突入した.本格的な藪漕ぎは久しぶりだ.相変わらず笹は強い.つく,つかむ,ひっぱたく,ひっかく,引っ掛ける,押し返す,押し倒す.複合技も見事だが,目を狙った急所攻撃は巧みだ.メガネをかけていても,その横から見事に差し込んでくる.それでも道筋は足元ではっきりとしているのはありがたかった.ただこの戦いがいつまで続くのか,それによってどれだけ体力と時間を消耗するのか,それが不安だった.この薮がもし目的地辺りまで続いていれば,計画は完全に崩れ去ってしまう.それはヤブの中での退転,途中撤退を意味している.

ありがたいことに,笹薮は思っていたよりも長くは続かなかった.道筋も切れ目なく続いてくれる上に,赤テープもまだ所々に顔を出す.人を惑わす多重山稜も何度か現れたが,道はそれでも見えていた.

再びコルへと下って行くと,そこには「安倍山系」に書かれていた保安林標識があった.うれしかった.ルートは外れていなかったのだ.横に傾き,錆びきっていた保安林標識に元気をもらい,コルからの登り返しを開始する.


しばらくは細尾根や多重山稜があったが,目的地に近づくに連れて,尾根は広がり,次第に幅の広い広葉樹林の急斜面のようになった.こうなると道は薄いというより,無に等しい.大体の感じで,枯れ葉に覆われた滑りやすい斜面を上っていく.

やがて斜面は緩やかになり,ブナ林の中を散策する感じになっていった.自分の気持も徐々に凪いでいくのがわかった.目的地「アツラ沢ノ頭」の気配を肌で感じた.赤テープは律儀に,所々にまだ巻かれている.それをたどっていくと林はついに終わり,県民の森の明るい遊歩道に出た.

遊歩道は比較的幅が広く,歩きやすいようにきれいに整地されていた.極めて緩やかな坂には,公園でよく見かける丸太階段すら置かれていた.戦いは終わったのだ.しかし自分は,今までの激しい山行とのギャップに吐き気のような違和感を覚えた.確かに気持ちの良い森で,鬱蒼とした感じもない.しかしこの現在の歩行は「山行」とは言えなかった.おそらく「散策」でもない.「散歩」という言葉が一番似合っている.



アツラ沢ノ頭は,この遊歩道上にあるはずだった.とりあえずあまりにも歩きやすいその遊歩道を道なりに歩いた.しばらく行くと右手に東屋が見えた.休憩の候補地としてそれを覚える.

やがて何の前触れもなくそれは現れた.遊歩道の道端に,「アツラ沢ノ頭」と書かれた看板とその左横に三角点標石.以上終わり.これがすべてだ.

「アツラ沢ノ頭」.それは今や,山頂(ピーク)といったものではない.言うなれば,道端に付けられた「地名」「アダ名」だった.信号機の横によく見かける便宜上設けられた地名のようなものだった.それ以上でもそれ以下でもない.

さすがに「やられた」という思いがした.三角点標石はたしかにそこに間違いなくあった.あったのだが,それは今まで自分が見てきたそれとは全く別のものだった.いつも山頂の三角点標石に感じている,大自然の中の希少異物=人工物という趣が全くなかったのだ.

確かに今までの三角点標石との出会いは,大自然の中で決して会うはずのない「ヒト」という生物と出くわしてしまったかのような,発見の不思議な喜びがあった.しかし人工的に整備された県民の森遊歩道において,その標石は単なる遊歩道の付属物に成り下がっており,自分になんらの感動を呼び覚ますものはなかった.

その意外性に軽いショックを受けたが,先ほどの東屋を思い出し,すぐにそちらに歩を進めた.目の前の三角点標石よりも,屋根のある東屋のほうがずっと価値が有るように,その時は思えたのだった.