★概要
- 日程:2016年5月24日
- 天候:晴れ,金木荒ノ頭山頂気温(23.8℃)
- コースタイム:
自宅発3:10→六郎木駐車場着6:10→六郎木駐車場発6:20→赤水登山口着8:00→金木荒ノ頭着11:30→休憩1.5時間→金木荒ノ頭発13:15→赤水登山口着15:15→六郎木駐車場着17:00→自宅着19:15 - 総行動時間:16時間(自転車:3+2.5時間,山行:5.5+4時間)
- 休憩時間:2時間
- ルート:松浦理博「安倍山系 中」,笹山ルート④
★写真(195枚)
★動画(5本)
★ 感想
「ここで小休止するしかないのか?」今までの山行中,そう思ったことはなかったように記憶する.「小休止しなければ,もはや前に進むことが出来ない」と思わざるを得ない状況に追い込まれたのは,おそらく今回が初めてだ.
確かに,今回より夏装備となり,水を+0.5リットル,日焼け止め,森林香,防虫ネットなどが加えられ,1kgぐらい装備は増加したと思う.しかしそれだけでは,この疲労は説明できないのではないか?実際去年の夏,同様の装備で大光山(1661m)や十枚山(1726m)を登っているが,小休止を取ろうと思ったことはなかった.やはりルート自体が,かなり厳しかったのだろう.
スタートはいつものように夜明け前の自転車行から始まった.
夜が明けてしばらくした頃,安倍川にかかる吊橋を通りかかった時,猿の一群がその吊橋を急いで渡って行くのが見えた.
先頭を行く親ザルの後を,少し離れて小猿がついていくのだが,小猿は途中で立ち止まってしまう.それに気づいた親ザルが後ろを振り向いて,小猿を見つめると,小猿は再び前を行く親ザルを追って歩き出す.それを見た親ザルは前をむき,再び歩を進め,猿たちは対岸にもはや達しようとしていた.
猿を見るのが久しぶりだった上に,集団で見るのは初めてだったので,つらい坂登の自転車行も少し気が晴れた.
六郎木に到着した.ここからは約2時間ほど,通い慣れた県道29号を徒歩で北上する事になる.当たり前だが車道歩きはつまらないし,トレッキングシューズでは足の裏に負担がかかる.道端の草花の変化などに注目しながら,赤水を目指した.
その途中,再び猿に出会った.ある集落でまずボス猿が,続いてまだ赤ん坊の小猿がしがみついている母猿が,目の前を横切った.自分の熊鈴の音に気づいたのか,あわてて道路の左にあった梅林のような場所から道路へ飛び出し,右側の山の斜面に消えていった.
その時の彼らの,人間の手から逃れようとする必死な姿が,今でも目に浮かぶ.それはまるで,襲いかかる災難の中を,希望を捨てず懸命に生き延びようとする,若い夫婦のようだった.
勘違いしていたのだが,赤水は,以前大光山登山のルートとして選択した草木よりも,さらに北にあった.赤水の滝が草木よりも南にあったため,勘違していたのだ.草木バス停を超えて,赤水の集落に入リ,さらに林道を目指す.
林道コンヤ沢線は,予想以上に荒れていた.崩落により道が落石でいっぱいだった.これでは車は通れない.地元の方々もこの道はあまり使用していなのではなかろうか?
林道をしばらく行くと,ついに目指していた登山口となるコンクリ階段らしきものが山側に現れた.「らしき」というのは,その階段が落ち葉と土に埋もれていたからだ.例によって,ほとんど踏まれていない感じだった.しかもコンクリ階段のその先が,細い急坂になっているのが見えた.それらは前途多難を感じさせたが,登り始めると案の定,さらに急坂がお助けのトラロープとともに現れた.
そこを登り切ると尾根だった.尾根道を少し歩くと展望が開けてきた.展望といっても,標高がまだ低いため,眺望感に乏しい.少し写真を撮って歩を進めた.
少し歩いてみると,このルートの難度がだんだんわかってきた.まず基本的に尾根が細い.しかも大量の枯れ葉がその細い登山道を覆っていた.場所によっては笹もかぶっている.それだけならまだいいのかもしれないが,道の斜度が連続してきついため,どうしても慎重にならざるをえない.
特にこれらの条件が重なった上に,枯れ葉で道が見えなくなった斜面がその後出てきたが,ここは危険箇所と言っても良いだろう.帰りはここで滑って尻餅をついてしまった.一番斜度のある危険な場所ではなかったので滑落にはならず,助かった.その時は笹束を掴んで立ち上がり,再び慎重にRFしながら,斜面を降りていった.
登山の最初は広葉樹も見られたのだが,やがてお決まりの杉・桧林の中を行くことになった.尾根が笹におおわれているためか,道は尾根の左右についている事が多いようだ.しかしその道も獣道のように細く,落ち葉に埋もれている.もしかしたら本当に獣道かもしれなかった.ケモノの足跡があったからだ.
いずれにしてもそのような道は,谷側への滑落の恐れがあった.そのため無理しても尾根に取り付く必要を感じる場所もあり,実際取り付きの踏跡?(獣道?)もあった.作業道らしきものもあり,道は細かく分岐している.その中から状況によりルートを選択するため,時間もエネルギーも予想以上に消費してしまった.
それらを乗り切ると,石積のあるちょっとした平坦地に出た.斜面側に道があるはずなのだがよく見えない.そこは急傾斜の間伐帯になっていた.とりあえず尾根筋に当たるその間伐帯を登ることにする.
何十本あるのだろうか?間伐された杉をひたすらにまたぎ越しながら,道なき急傾斜を延々と上っていく.これは肉体的精神的にこたえた.林業者はこれを毎日のようにやっているのだろうか?
当然ではあるがこの場所では,林業用の作業道が左右に無数に枝分かれしている.途中何度もその楽そうな道に誘惑されたが,わかりやすい尾根筋を垂直に登り続けた.
少し斜面が緩やかになった頃,その日初めてのテープが何本か出てきた.もちろんここまで標識は一切ない.とりあえず,少しテープを辿ってみようと思ったのだが,そのテープはやがて消えてしまった.再び道の見えない間伐帯の斜面を,GPSを頼りに登っていった.
間伐帯を抜けても,延々と続く急坂と杉・桧林は肉体的にも精神的にもこたえる.斜面には広葉樹が輝いているのだが,杉と桧が邪魔をしてよく見えない.気温も高く,発汗が疲労に拍車をかけた.珍しく肩も凝っていたのは,ザックの重量増加のためだろうか?
「ここで小休止を取るしかないか?」
そのような考えが,魂の奥から絞りだされてきた.しかし休むにしても,斜面であるため休憩に適した場所がない.とりあえず太めの杉の木の根本で,ザックを背負ったまま,立ち止まって,給水などを繰り返した.時間はあまりの残っていないことはわかっていた.歩を進めねばならない.それまでの気持ちを切り替えて,とりあえず金木荒ノ頭ではなく,その手前にある1400m峰を目指すことにした.
1400m峰の手前あたりの尾根道は比較的平坦であるため,少し歩くと疲れが取れてきた.その1400m峰では,キャンプ跡のようなものを発見した.もしかしたら林業者の休憩所なのかもしれない.確かにテン場としては良いのかもしれないが,ここにも全く展望はない.
1400m峰を下った他の登山道の交差点となるコルに,その日初めての標識,懐かしの静岡市教育委員会の黄色いプラスチック製標識裏面が現れた.しかも進入禁止のトラロープとともに.
つまり自分の採ったこのルートは,教育委員会に推奨されていないものだったわけだ.確かに,このルートは自分も推奨しない.旨味がなく危険で,楽しくない.
そこにあった別の標識によると,尾根道を横切る登山道は「牛首線歩道」というらしい.林業者の呼び方のようだ.この場所には執拗に「火の用心」「山火事注意」の看板があるが,林業者はタバコをよく吸うのかもしれない.山の空気がタバコをうまくするのだろうか?
コルからさらに尾根道を上っていく.最初はやはり杉・桧林だったが,しばらく行くとようやくそれも終わり,広葉樹の中に入った.ただし尾根は笹が多く歩きにくい.尾根が痩せてはいないので,適当に左に巻いて歩を進めた.
やがて印象的な場所が現れた.広葉樹の大木が周りを囲む丸いくぼみのような平坦地である.直径20mぐらいであろうか?おそらくこれが「安倍山系」に書かれていた池の跡だと思う.池はコケのような背の低い緑に覆われていた.
そこを過ぎるとすぐに金木荒ノ頭が三角点の標柱とともに現れた.ようやく到着したのだった.しかしその場所は想像していたものとは全く異なっていた.
樹木に囲まれて展望は全く無かった.花もなし.山名板もなし.あるのは木に吊るされた謎の真っ赤なボロのようなシャツと,工事現場用のスケール2本,そして無数のハエだった.
これには,少なからぬショックを感じた.これだけ苦労した山行の結果が,これだったのかと.ザックをデポって,周辺に展望地を探しに行ったのだが,見当たらなかった.付近に花も咲いてはいなかった.
しかし疲れていたのだろう.山頂に戻り,森林香を焚き,防虫ネットをかぶり,淡々と食事の準備を始めた.感情がフラットになっていた.
ただ金木荒ノ頭自体は,広葉樹に囲まれた静かな場所で,広葉樹の屋根のおかげで強い日差しが差し込むこともなく,風もそれほど吹かず,平坦であるため休憩はしやすい.割り切れば,それほど悪い場所ではないと思う.
約1.5時間休憩したが,あまり疲れは取れなかった.座っていたブルーシートから立ち上がろうとした時,太ももの内側がつりそうになり焦った.これも今までなかったことだ.慎重に手を地面について立ち上がった.
下山は,枯れ葉と傾斜のため,上りよりも慎重にならざるを得なかった.危険箇所はゆっくりと降りるのは当たり前だが,それでも滑った.笹を掴んで体制を取り直し,ゆっくり立ち上がり,周囲の状況を確認する.道がないので,安全なルートをRFしなければならない.
途中で谷側に一頭のシカを発見した.自分が歩いた音に反応して,白いおしりを自分に向けながら,谷を駆け下っていった.相変わらずすごい運動能力だ.
下山時にもう一匹,生物に出会った.スズメバチだ.近づくまでその存在に気づかなかったが,一匹のスズメバチが木の根もとでホバリングして,何かをしている.もしかしたら巣作りをしようとしていたのかもしれない.自分はそれに気づいて慌てないようにと自分に言い聞かせながら,その場を急いで離れた.振り向いて見ると,スズメバチは,自分のことを全く気にしていないようで,相変わらず同じ場所でホバリングを続けていた.警告音もしない.やはり巣となる木の選定をしているのだろうか?
慎重に下るが,立ち止まるほど足は疲れないので,下山は2時間ほどで終わった.登山口ではホッと一息ついた.その後2時間ほどは,日差しの中をアスファルトの車道歩き.足の裏がかなり痛くなったが,道端の花で気を紛らわした.
帰りの自転車行はクタクタだったが,いつもよりも体力はあった気がする.水が最後まで残ったので,水分補給がうまくいったためなのかもしれない.
帰宅は計画よりも2時間ほど遅くなった.体重はスタートより3kg減.しかし筋肉痛,特に上半身は今までにないものとなった.おそらくルートに急傾斜が多く,下りでストックに体重をかけたためだろう.
食事後,椅子に座りながら,そのままいつの間にか寝てしまった.