2016年5月24日火曜日

赤水→金木荒ノ頭(1463m)

★概要

  • 日程:2016年5月24日
  • 天候:晴れ,金木荒ノ頭山頂気温(23.8℃)
  • コースタイム
    自宅発3:10→六郎木駐車場着6:10→六郎木駐車場発6:20→赤水登山口着8:00→金木荒ノ頭着11:30→休憩1.5時間→金木荒ノ頭発13:15→赤水登山口着15:15→六郎木駐車場着17:00→自宅着19:15
  • 総行動時間:16時間(自転車:3+2.5時間,山行:5.5+4時間)
  • 休憩時間:2時間
  • ルート:松浦理博「安倍山系 中」,笹山ルート④

★写真(195枚)

★動画(5本)

★ 感想

「ここで小休止するしかないのか?」

今までの山行中,そう思ったことはなかったように記憶する.「小休止しなければ,もはや前に進むことが出来ない」と思わざるを得ない状況に追い込まれたのは,おそらく今回が初めてだ.

確かに,今回より夏装備となり,水を+0.5リットル,日焼け止め,森林香,防虫ネットなどが加えられ,1kgぐらい装備は増加したと思う.しかしそれだけでは,この疲労は説明できないのではないか?実際去年の夏,同様の装備で大光山(1661m)や十枚山(1726m)を登っているが,小休止を取ろうと思ったことはなかった.やはりルート自体が,かなり厳しかったのだろう.

スタートはいつものように夜明け前の自転車行から始まった.

夜が明けてしばらくした頃,安倍川にかかる吊橋を通りかかった時,猿の一群がその吊橋を急いで渡って行くのが見えた.

先頭を行く親ザルの後を,少し離れて小猿がついていくのだが,小猿は途中で立ち止まってしまう.それに気づいた親ザルが後ろを振り向いて,小猿を見つめると,小猿は再び前を行く親ザルを追って歩き出す.それを見た親ザルは前をむき,再び歩を進め,猿たちは対岸にもはや達しようとしていた.

猿を見るのが久しぶりだった上に,集団で見るのは初めてだったので,つらい坂登の自転車行も少し気が晴れた.

六郎木に到着した.ここからは約2時間ほど,通い慣れた県道29号を徒歩で北上する事になる.当たり前だが車道歩きはつまらないし,トレッキングシューズでは足の裏に負担がかかる.道端の草花の変化などに注目しながら,赤水を目指した.

その途中,再び猿に出会った.ある集落でまずボス猿が,続いてまだ赤ん坊の小猿がしがみついている母猿が,目の前を横切った.自分の熊鈴の音に気づいたのか,あわてて道路の左にあった梅林のような場所から道路へ飛び出し,右側の山の斜面に消えていった.

その時の彼らの,人間の手から逃れようとする必死な姿が,今でも目に浮かぶ.それはまるで,襲いかかる災難の中を,希望を捨てず懸命に生き延びようとする,若い夫婦のようだった.

勘違いしていたのだが,赤水は,以前大光山登山のルートとして選択した草木よりも,さらに北にあった.赤水の滝が草木よりも南にあったため,勘違していたのだ.草木バス停を超えて,赤水の集落に入リ,さらに林道を目指す.

林道コンヤ沢線は,予想以上に荒れていた.崩落により道が落石でいっぱいだった.これでは車は通れない.地元の方々もこの道はあまり使用していなのではなかろうか?


林道をしばらく行くと,ついに目指していた登山口となるコンクリ階段らしきものが山側に現れた.「らしき」というのは,その階段が落ち葉と土に埋もれていたからだ.例によって,ほとんど踏まれていない感じだった.しかもコンクリ階段のその先が,細い急坂になっているのが見えた.それらは前途多難を感じさせたが,登り始めると案の定,さらに急坂がお助けのトラロープとともに現れた.

そこを登り切ると尾根だった.尾根道を少し歩くと展望が開けてきた.展望といっても,標高がまだ低いため,眺望感に乏しい.少し写真を撮って歩を進めた.

少し歩いてみると,このルートの難度がだんだんわかってきた.まず基本的に尾根が細い.しかも大量の枯れ葉がその細い登山道を覆っていた.場所によっては笹もかぶっている.それだけならまだいいのかもしれないが,道の斜度が連続してきついため,どうしても慎重にならざるをえない.

特にこれらの条件が重なった上に,枯れ葉で道が見えなくなった斜面がその後出てきたが,ここは危険箇所と言っても良いだろう.帰りはここで滑って尻餅をついてしまった.一番斜度のある危険な場所ではなかったので滑落にはならず,助かった.その時は笹束を掴んで立ち上がり,再び慎重にRFしながら,斜面を降りていった.



登山の最初は広葉樹も見られたのだが,やがてお決まりの杉・桧林の中を行くことになった.尾根が笹におおわれているためか,道は尾根の左右についている事が多いようだ.しかしその道も獣道のように細く,落ち葉に埋もれている.もしかしたら本当に獣道かもしれなかった.ケモノの足跡があったからだ.

いずれにしてもそのような道は,谷側への滑落の恐れがあった.そのため無理しても尾根に取り付く必要を感じる場所もあり,実際取り付きの踏跡?(獣道?)もあった.作業道らしきものもあり,道は細かく分岐している.その中から状況によりルートを選択するため,時間もエネルギーも予想以上に消費してしまった.

それらを乗り切ると,石積のあるちょっとした平坦地に出た.斜面側に道があるはずなのだがよく見えない.そこは急傾斜の間伐帯になっていた.とりあえず尾根筋に当たるその間伐帯を登ることにする.


何十本あるのだろうか?間伐された杉をひたすらにまたぎ越しながら,道なき急傾斜を延々と上っていく.これは肉体的精神的にこたえた.林業者はこれを毎日のようにやっているのだろうか?

当然ではあるがこの場所では,林業用の作業道が左右に無数に枝分かれしている.途中何度もその楽そうな道に誘惑されたが,わかりやすい尾根筋を垂直に登り続けた.

少し斜面が緩やかになった頃,その日初めてのテープが何本か出てきた.もちろんここまで標識は一切ない.とりあえず,少しテープを辿ってみようと思ったのだが,そのテープはやがて消えてしまった.再び道の見えない間伐帯の斜面を,GPSを頼りに登っていった.

間伐帯を抜けても,延々と続く急坂と杉・桧林は肉体的にも精神的にもこたえる.斜面には広葉樹が輝いているのだが,杉と桧が邪魔をしてよく見えない.気温も高く,発汗が疲労に拍車をかけた.珍しく肩も凝っていたのは,ザックの重量増加のためだろうか?

「ここで小休止を取るしかないか?」

そのような考えが,魂の奥から絞りだされてきた.しかし休むにしても,斜面であるため休憩に適した場所がない.とりあえず太めの杉の木の根本で,ザックを背負ったまま,立ち止まって,給水などを繰り返した.時間はあまりの残っていないことはわかっていた.歩を進めねばならない.それまでの気持ちを切り替えて,とりあえず金木荒ノ頭ではなく,その手前にある1400m峰を目指すことにした.

1400m峰の手前あたりの尾根道は比較的平坦であるため,少し歩くと疲れが取れてきた.その1400m峰では,キャンプ跡のようなものを発見した.もしかしたら林業者の休憩所なのかもしれない.確かにテン場としては良いのかもしれないが,ここにも全く展望はない.



1400m峰を下った他の登山道の交差点となるコルに,その日初めての標識,懐かしの静岡市教育委員会の黄色いプラスチック製標識裏面が現れた.しかも進入禁止のトラロープとともに.

つまり自分の採ったこのルートは,教育委員会に推奨されていないものだったわけだ.確かに,このルートは自分も推奨しない.旨味がなく危険で,楽しくない.

そこにあった別の標識によると,尾根道を横切る登山道は「牛首線歩道」というらしい.林業者の呼び方のようだ.この場所には執拗に「火の用心」「山火事注意」の看板があるが,林業者はタバコをよく吸うのかもしれない.山の空気がタバコをうまくするのだろうか?


コルからさらに尾根道を上っていく.最初はやはり杉・桧林だったが,しばらく行くとようやくそれも終わり,広葉樹の中に入った.ただし尾根は笹が多く歩きにくい.尾根が痩せてはいないので,適当に左に巻いて歩を進めた.

やがて印象的な場所が現れた.広葉樹の大木が周りを囲む丸いくぼみのような平坦地である.直径20mぐらいであろうか?おそらくこれが「安倍山系」に書かれていた池の跡だと思う.池はコケのような背の低い緑に覆われていた.



そこを過ぎるとすぐに金木荒ノ頭が三角点の標柱とともに現れた.ようやく到着したのだった.しかしその場所は想像していたものとは全く異なっていた.

樹木に囲まれて展望は全く無かった.花もなし.山名板もなし.あるのは木に吊るされた謎の真っ赤なボロのようなシャツと,工事現場用のスケール2本,そして無数のハエだった.

これには,少なからぬショックを感じた.これだけ苦労した山行の結果が,これだったのかと.ザックをデポって,周辺に展望地を探しに行ったのだが,見当たらなかった.付近に花も咲いてはいなかった.

しかし疲れていたのだろう.山頂に戻り,森林香を焚き,防虫ネットをかぶり,淡々と食事の準備を始めた.感情がフラットになっていた.

ただ金木荒ノ頭自体は,広葉樹に囲まれた静かな場所で,広葉樹の屋根のおかげで強い日差しが差し込むこともなく,風もそれほど吹かず,平坦であるため休憩はしやすい.割り切れば,それほど悪い場所ではないと思う.


約1.5時間休憩したが,あまり疲れは取れなかった.座っていたブルーシートから立ち上がろうとした時,太ももの内側がつりそうになり焦った.これも今までなかったことだ.慎重に手を地面について立ち上がった.

下山は,枯れ葉と傾斜のため,上りよりも慎重にならざるを得なかった.危険箇所はゆっくりと降りるのは当たり前だが,それでも滑った.笹を掴んで体制を取り直し,ゆっくり立ち上がり,周囲の状況を確認する.道がないので,安全なルートをRFしなければならない.

途中で谷側に一頭のシカを発見した.自分が歩いた音に反応して,白いおしりを自分に向けながら,谷を駆け下っていった.相変わらずすごい運動能力だ.

下山時にもう一匹,生物に出会った.スズメバチだ.近づくまでその存在に気づかなかったが,一匹のスズメバチが木の根もとでホバリングして,何かをしている.もしかしたら巣作りをしようとしていたのかもしれない.自分はそれに気づいて慌てないようにと自分に言い聞かせながら,その場を急いで離れた.振り向いて見ると,スズメバチは,自分のことを全く気にしていないようで,相変わらず同じ場所でホバリングを続けていた.警告音もしない.やはり巣となる木の選定をしているのだろうか?

慎重に下るが,立ち止まるほど足は疲れないので,下山は2時間ほどで終わった.登山口ではホッと一息ついた.その後2時間ほどは,日差しの中をアスファルトの車道歩き.足の裏がかなり痛くなったが,道端の花で気を紛らわした.

帰りの自転車行はクタクタだったが,いつもよりも体力はあった気がする.水が最後まで残ったので,水分補給がうまくいったためなのかもしれない.

帰宅は計画よりも2時間ほど遅くなった.体重はスタートより3kg減.しかし筋肉痛,特に上半身は今までにないものとなった.おそらくルートに急傾斜が多く,下りでストックに体重をかけたためだろう.

食事後,椅子に座りながら,そのままいつの間にか寝てしまった.

2016年5月13日金曜日

孫佐島→深沢山(1474m)

★概要

  • 日程:2016年5月13日
  • 天候:晴れ,深沢山山頂気温(22.5℃)
  • コースタイム
    自宅発3:20→六郎木駐車場着6:10→六郎木駐車場発6:20→孫佐島登山口着7:10→一服峠着9:10→深沢山着10:40→休憩1.5時間→深沢山発12:20→孫佐島登山口着14:10→六郎木駐車場着15:00→自宅着17:30
  • 総行動時間:13時間(自転車:3+2.5時間,山行:4.5+2.5時間)
  • 休憩時間:2時間
  • ルート:松浦理博「安倍山系 中」,笹山ルート④

★写真(270枚)

★動画(8本)

★ 感想

前回の山行は,目標である深沢山に到達できず,途中の一服峠で終了となった.その原因は,天神山への予定ルートが消滅していたためであった.
今回は深沢山のみを目標として計画したため,計画時間内の山頂到達は予想外の出来事が起こらないかぎり可能なはずだった.ただし前回と同じルートでは面白みがないため,孫佐島からの破線ルートを計画に採用した.

もちろん破線路といっても千差万別で,既に廃道となっていたり,ほぼそれに近い状態の激しく荒れた道もある.したがって道の状態によっては,斜面を登ったり,深いヤブを漕ぐ必要があるかもしれなかった.しかも今回のルートでは,最初に前回の大代ルートよりも急な勾配を上る必要があるのは,「安倍山系」や地形図からわかっていた.

仮に今回のルートが急勾配の廃道に近い道となれば,かなりの激闘が登山の序盤戦に予想され,そこで体力と時間が相当に消耗される恐れがある.

しかしながら「安倍山系」では,この孫佐島ルートは静岡市認定の「みどりの道」とされていた.通常の「みどりの道」ならば,静岡市(実際は市岳連などの人々)によって整備はされているはずなので,安心したいところだが,不気味なことに,Googleストリートビューで孫佐島登山口周辺を見たところ,標識類は全く無いことがわかった.

はたして本当にこのルートは本当に整備された道なのか?それとも「みどりの道」というのは「安倍山系」の誤りか?あるいは以前は認定路であっても,現在は認定から外された廃道に近い道ではないのか?

やや心配な部分があったが,全ては現地判断ということで,今回の山行をスタートさせることにした.上記のことを考慮して,計画上の総行動時間は前回よりも長めに,また山頂到着も早めに設定した.状況によっては途中撤退も覚悟はしていた.

諸事情によってスタートは,前回より若干遅れたが,六郎木到着時はほぼオンタイムとなった.六郎木からは,徒歩で孫佐島登山口まで車道を移動する.すでに大光山山行の時に歩いたことのある車道で,強い既視感を持って歩いて行った.

今回のお楽しみの一つは,孫佐島の吊橋だった.山行のために吊橋を渡るのは,今回がはじめてとなる.

車道を約1時間ほど歩き,吊橋の前についた.ちょっと驚いたのは,その手すりとなるワイヤー位置の低さだ.ワイヤーがだいたい腰ぐらいの高さとなっており,上半身の横にはネットやワイヤーはなく,単なる空間となっている.ちょっと体を横に乗り出せば,真っ逆さまに落ちてしまいそうな気がする.下までは20m位あるだろうか?

吊橋を歩き始めると,すぐに橋全体が上下うねり,同時に左右にも揺れてしまうことがわかった.まるでめまいを起こしたような錯覚にとらわれ,思わずワイヤを片手で握り,それを滑らせながら歩くことになった.地元の方は余裕なのだろうか?


こうして吊橋をクリアし,対岸の車道を歩き始めると,例の登山口へ接続する道にすぐついた.事前調査の通り,周囲に標識類は一切存在しない.「安倍山系」に書かれていた,電柱の番号が標識の代わりだ.車道から離れて左折し,電信柱脇の道へと入って行った.

ところがすぐに見つかるべき登山口らしきものを最初見つけることができなかった.道を直進すれば民家に突入してしまうようだった.そこで道脇の林の中をよく見ると,石積の横に薄い踏み跡らしきものが見えてきた.

とりあえずその踏み跡らしきもの歩いて,木々の間に入ってみると,ありがたいことに,その踏み跡が尾根に向かって上に伸びていた.間違いない,山道だ.

こうしてようやく今回の山歩きがスタートした.全くありがたいことなのだが,道は荒れていなかった.意外としっかり踏まれている感じがする.整備もされているようだが,標識はなぜかすぐには出てこなかった.

最初に出会った標識は,梅ヶ島でよく見かける鉄製?の古い標識だった.例によって標識に文字はなく,矢印もほぼ消えかけている.それでもとりあえず標識も出てきたことに安堵した.作業道でもなく,獣道でもないのだから.

しばらく杉林の中を行くと古い標識ではなく,お馴染みの黄色いプラスチック標識が出てきた.比較的新しいようで「静岡県山岳遭難防止対策協議会」の文字がはっきり読み取れる.

ということは,このルートは荒れていないだけでなく,新しい標識もそこそこ存在し,また危険箇所にはロープ等の対策が施されている可能性が高いと思われた.今回はかなりの戦いを覚悟していたが,どうやらその心配は杞憂に終わりそうだった.

実際,その後,悪場には遭遇せず,ガレた場所にはトラロープ,間違いそうな分岐点には標識があり,登山時には迷うことはなかった.ただし予想通り,長い急坂は存在した.しかし直登はあまりなく,多くはツヅラであったため助かった.

一服峠までの山行はずっと杉林の中かと思っていたのだが,実際は途中から谷側斜面がスギ以外の広葉樹主体の林になってくれた.快晴だったので,新緑が美しく,緑の宝石のように輝いて見える.しかも広葉樹林だけでなく,ところによっては松林もあり,変化があって面白い.その他にも斜面いっぱいの苔生す石群や,付近の山々を臨めるガレ場などもある.


やがて前回の山行で途中撤退を決めた一服峠についた.快晴のためブナ林が前回よりもずっと美しく見える.ここまで約2時間かかった.ということは前回の井川峠登山口から一服峠までにかかった時間とほぼ同じということになる.孫佐島からのルートには水場はないが,このルートも井川峠への主要なルートと考えて良いのかもしれない.

一服もせず一服峠を超えてさらに上っていくと,ついに道左側の杉林が終わりを告げ,広葉樹主体の尾根となってくれた.様々な個性的なポーズを取った木々やその木肌,どっしりと構え,その枝を天空に向かっておもいっきり伸ばしたブナの巨木たち,所々に咲いている紫と白のツツジの色彩のアクセント.自分はそれらの間をある種の高揚感とともに歩いて行った.

「ついに帰ってきたんだ」

その時自分は,はっきりそう思った.お気に入りだったあの見延山地の尾根を歩いていた時の感覚が蘇ってきたのだ.ここにはいのちの自由がある.生があり,死があり,再生がある.厳しさがあり,優しさがあり,笑みがあり,荘厳がある.自分はこの尾根歩きを満喫していた.

ついに深沢山についた時,自分はその山頂の狭さに驚いた.これは今まで行った山の中でも,最小クラスの狭さだった.しかも平坦ではなく傾斜しているため,休憩場所の確保が難しい.

山頂に到着したのは,午前10:30頃だったかと思う.快晴で既に気温は高く,温度は22度もあった.笹の多い場所なので,当然のことながら,ハエ・ハチ・アブもたくさんいた.彼らは塩分がほしいのだろうか,自分が木の枝にかけて干していたタオルに次々集まってきて,美味しそうにその中の汗を吸っていた.

ハエの中には,涙を狙って何度も自分の目の中に飛び込んでくる奴もいる.飛び込んでしまうと思わずまぶたを閉じてしまい,ハエが挟まってしまうのだが,なかなか逃げようとしない.いつもながら厄介な連中だ.もう防虫対策が必要な季節となったようだ.

今回は一応ディートスプレーを持参していたので,早速身体に噴きかけてみたのだが,案の定,その効果は芳しくない.むしろ人間のほうが,その匂いに気持ち悪くなってしまい,なんだか頭痛もしてくる.次回からは防虫ネットと森林香を持参する決意を固めた.

深沢山には展望があると「安倍山系」には書かれていたが,実際は残念ながら斜面の木々の成長により,山名板のある場所からはほとんど展望はない.虫や日差し(木陰がない)と闘いながら,食事を取り,約1.5時間休憩する.その間,複数のハエによる執拗な攻撃を受け,また目の前でホバリングする彼らの羽音がうるさく,心身をゆっくり休めることは出来なかった.休憩後そそくさとその場を後にして,下山を開始した.


六郎木駐車場に戻ったのは15:00頃.当初の計画より2時間ほども早かった.しかし,そこからの自転車行は,歌も歌いたくなくなるほどの厳しいものとなった.

久々の1400m級だったためなのか?
しかし前回よりも山行時間は短いはずだし,前回も1200mは登っている.

最初の急坂がカラダに効いてしまっているのか?
それはありえるかもしれないが,込岳のような直登は少なかったし,アップダウンも殆ど無かったはずだ.

水分やカロリーが足りていないのか?
一応,水は市街地に戻ってくるまで保っていた.飲み方が足りなかったのか?
カロリー摂取は少なめだったと思うが,前日に相当カーボロードしているはずだし,ちょっと無理して行動食を食べていた.

…結局のところ原因はよくわからなかったが,次回はのどが渇いていなくても,腹が減っていなくても,水分と行動食を定期的に摂取してみようと思う.

携行する水量については,今回の山行では全く余らなかったため,次回からは水量を0.5リットル追加し,4リットルとする予定.

帰宅後体重をはかってみたところ,前回とほぼ同様で3キロほど減っていた.これがカラダにはしんどいのかもしれない.

これからは夏山装備で出陣する予定.

2016年5月3日火曜日

六郎木→天神山(854m)→一服峠(約1200m)

★概要

  • 日程:2016年5月3日
  • 天候:晴れのちくもり,一服峠気温(15.9℃)
  • コースタイム
    自宅発2:50→六郎木駐車場着6:10→尾根取り付き開始6:20→林道に撤退完了8:00→天神山登山口(茶畑)着9:00→天神山山頂着9:20→ 休憩&作業20分→天神山発9:40→林道天神山線着10:00→井川峠登山口着10:10→一服峠着11:45→休憩1.5時間→一服峠発 13:15→井川峠登山口着14:10→六郎木駐車場着15:00→自宅着17:30
  • 総行動時間:13時間(自転車:3.5+2.5時間,山行:5.5+2時間)
  • 休憩時間:2.5時間
  • ルート:松浦理博「安倍山系 中」,笹山ルート①

★写真(216枚)

★動画(4本)

★ 感想


今回の山行は天神山→深沢山の縦走を目指していたが,時間切れとなり,途中の一服峠で引き返した.

天神山へのアプローチを,六郎木のそばの登山口から尾根への取り付き開始したが,すでに登山口が荒れており,人が入っていない感じが強かった.

少し登っていくと道は,落ち着き始めたので安心したが,突如出現した防獣網によって,この後大きく計画が乱されることになる.


「安倍山系」では防獣網のことは書かれていなかった.防獣網の中は伐採地となっており,本来はそこに尾根筋があるようだったが,諦めて防獣網沿いの山道を行った.

しかしそのトラヴァース道も,防獣網がなくなると同時に荒れ始め薄くなってしまった.おまけにその先は尾根筋からどんどん離れていってしまう.

そこで諦めて引き返し,防獣網にあった扉を開いて中に入ってみた.しかしその伐採地の急斜面に道らしきものはなく,またこの急斜面を登ったところで,防獣網から外に出るための扉があるかどうかはわからない.

防獣網の反対側の端まで行ったが,防獣網の外には道はないようだった.しかも防獣網に扉はなかった.ザレた場所の急斜面で危険もあるため,諦めて後戻りし,防獣網の外に出た.

その後もう一度,防獣網の終わる当たりまで移動し,尾根に取り付けるかどうか斜面を確認してみたが,もちろん道らしきものはない上に,急斜面であり,とても登れそうになかった.

これでやれることは全てやり尽くし,このルートを断念する決断に至った.約200mを下り,取り付いた林道へ戻る.約1.5時間のタイムロスと体力消耗となった.

林道を約1時間歩き,大代の集落に到着.集落内を歩いていると地元の男性が作業をしていたので,天神山への道を尋ねる.

するとすぐに彼の奥さんが現れ,自分の言葉を復唱して彼に告げた.どうやら彼は難聴だったのだろう.声が恐ろしく大きくて,まるで怒鳴られているように感じだったのはそのためだったのだ.話をしてみると,彼は天神山の地主だという.

「天神山には何もないよ.三角点も見つからないかもしれない」とご夫妻はおっしゃる.それでも自分は登ってみたいと告げると,なんと旦那さんが道を案内してくれるという.

恐縮しながら彼の後について,茶畑の道を上っていく.初めて,自分の山行にガイドがついた.

先行する旦那さんはいろいろと話しをしてくださった.特に道の途中で立ち止まり,自分の目的地である深沢山を指差して,山を解説をしてくださった事は印象に残った.


彼が指差す深沢山には,小さな引っかき傷のようなガレが山頂の少し下あたりにあった.旦那さんによれば,このガレから土砂が濁川に入り,そのために川の色が赤茶けてしまうという.濁川の名の由来だそうだ.

旦那さんとは途中でお別れして,再び単独行となった.天神山山頂にはすぐに到着した.三角点もすぐに見つかり,ヤブの中を探し回る心配は杞憂に終わった.


山頂を後にして,旦那さんのアドバイス通り,登り口とは反対の林道天神山線に下りた.その後,林道を歩き,深沢山への登山口となる場所まで移動する.

ジャージのようなものを着た,二人の若い女性を荷台に載せた軽トラが,林道をバックしてきた.お二人には挨拶したが,今考えてみると,おそらく茶摘みに行くところなのだろう.ここは高級茶葉の産地らしく,茶刈機は使用せず,手摘みするようだ.そのため家族総出で茶を積むのだろう.今はGWなのだが,茶農家はたいへんだ.価格が高いのも納得できる.

登山口に到着すると意外にも登山ポストがあった.書かないとまずいなと思っていると,後ろから「こんにちは」と声がした.登山ポストの隣りにある民家に住んでいるであろうご婦人であった.車に乗って今から,お出かけのようだ.

「登山届書いていってくださいね」と笑顔でおっしゃる.これでは書かないわけにはいかない.ところが極めてよくあることだが,ここにおいても登山届けの用紙は,所定の場所に入っていない.風雨と湿度で紙がダメになってしまうのはわかるのだが,何らかの対策が必要なのではないか?

どうしたものかと思い,とりあえずポストの中を覗いてみた.ポストの中には,数枚の紙片が入っていた.所定の登山届用紙がないため,登山者が紙片に計画を書いて投函したものらしい.

自分もそれに習い,ザックからメモと筆記具を取り出し,簡単に計画と氏名・住所・電話番号等を書いて投函した.


登山口を後にして登り始めると,すぐこの道が極めて整備された道であることがわかった.つまりカネがかかっているということだ.静岡市認定の「みどりの道」なのだから当然といえば当然だが,ザレているところには,鉄パイプで組んだ鉄橋や崩落防止の石組みが随所にある.

おそらく以前は難所であったと思われる「大代首」と呼ばれる痩せ尾根も,ご丁寧に鉄パイプ製の階段がつけられており,全く危険は感じられない.

特に驚いたのは,山道の途中に水道の水場があったことだ.ここまで上水を引いたことに驚く.さすがにこれは登山者のためではなく,石組み等の作業をする方々のための水場が残されたものだと想像するが,どうなのだろう?


このように人工臭のする道ではあるが,序盤は杉林ではなく,広葉樹の雑木林に囲まれているためか,歩いていて気持ちは良かった.

しかし大代首を過ぎてしばらくすると,杉林が始まった.いつもの杉林の中のつづら道かと思ったのだが,意外にもつづら道よりも,直登が多かった.連続的かつ単調な薄暗い杉林の中で,先の見えない直登を登り続けるのは,精神的にこたえる.

それがようやく終わると道はやや平坦になった.その少し後に,標高1200m程度と思われる「一服峠」に到着した.

一服峠には,たくさんの山火事注意の看板がある.文字通りタバコを一服する者が多かったようだ.これだけ注意看板があるということは,かつてここで山火事でもあったのだろうか?

一服峠自体は,半分が杉林なのだが,斜面側の半分は気持ちの良いブナ林となっていた.ブナも一本一本が背が高く,枝ぶりも良い.おまけにこの峠の周辺には,平坦地があるので,休憩するには確かに良い場所だ.

この時点で時間は既に11:45となっていた.やはり最初のロスタイムが大きかったようだ.深沢山まではあと1kmほどなのだが,何らかのハプニングがなくても,おそらく1時間はかかる.帰りが45分としても,約束した自宅帰着時間には間に合いそうもなかった.

ということで,今回の山行は深沢山を断念し,一服峠までとした.