★概要
- 日程:2017年6月29~30日
- 天候:曇り,梵天山山頂気温:21℃
- コースタイム:
自宅発21:40→徳願寺山門前(標高121m)着22:30→徳願寺ハイキングコース登山口着22:40→休憩・準備5分→徳願寺ハイキングコース登山口発22:45→徳願寺山(標高352m)展望台(山頂)着23:10→梵天山(標高376m)山頂着23:25→休憩20分→梵天山山頂発23:45→徳願寺山展望台(山頂)着0:00→徳願寺ハイキングコース登山口着0:20→休憩・準備5分→徳願寺ハイキングコース登山口発0:25→自宅着1:35 - 総行動時間:3.5時間
- 総休憩時間:30分
- 総移動距離:14km
- 最高標高:376m
★ レポート
雲ノ平を見てしまった!
雲ノ平を見てしまった!
雲ノ平を見てしまった!
…もちろん実際に雲ノ平に行ったのではない.そんな時間も体力も財力も,今の自分には全くない.
NHKトレッキングコース紹介番組「にっぽんトレッキング100」.その中の「北アルプス縦走!天空の楽園へ~雲ノ平~Part1」及び「七色に輝く神秘の楽園~北アルプス・雲ノ平Part2」であの雲ノ平を見たのだ.
今回見たこの二本は,今まで見てきた山番組と一味違っていて,深く自分の印象に残った.
その理由を少しあげてみよう.
まず,今回の採用ルートが北アルプス裏銀座縦走となっており,最初に日本三大急登の「ブナ立て尾根」が出てくるところ.
次に今回のガイドが,三俣山荘と水晶小屋管理人である伊藤圭氏であり,彼が長靴を履いて山を登っていたこと.
さらに彼と,その弟の雲ノ平山荘管理人である伊藤二朗氏が,父正一氏について率直に語ってくださったこと.
そしてダメ押し.
山行中に伊藤圭氏の目の前で滑落事故が発生し,彼が実際に谷を降り,救助に向かったこと.
山行中に伊藤圭氏の目の前で滑落事故が発生し,彼が実際に谷を降り,救助に向かったこと.
あのサバイバル登山家服部文祥氏が,テレビ番組「情熱大陸」収録中にやはり20m滑落し,肋骨を3本折った時,カメラマンとして同行していた平出和也氏(ピオレドール受賞者)に救助されたエピソードを彷彿とさせる場面だった.
しかし今回はそれだけにとどまらない.さらに印象に残ったのは,小屋に担ぎ込まれた遭難者を手当する小屋スタッフの手際の良さ.まるでERさながら.スタッフ全員が一体となって,各自無駄のない動きで,遭難者を迅速に処置していくその姿に,自分は深い感銘を受けた.
つまりこの番組の内容は,本来のトレッキングコース紹介といった趣旨からかなり離れた,いわゆる「登山」色の濃いものだったのだ.
おそらくのその「色」,その「匂い」が自分を強く刺激したのだろう.
「何が何でも山に行くのだ!」
どんな小さな山でもいいから,とにかく登りたいという思いが,激しく燃え上がってしまい,もはや居ても立ってもいられない.
暫くの間,梅雨っぽい雨空ではあったが,今晩はありがたいことに雨が降りそうもない.その他の条件も何故か今日は揃っている.いける.今晩やるしかない.
といっても諸事情で確保できる時間は,4時間程度.さらには山行計画も,身体的な準備も,装備のチェックもできていない状態.できることは当然「訓練」ということになるだろう.
訓練ならばやはり,通い慣れている徳願寺山が目的地として一番適当,かつ確実なのだろう.が,今回,それだけでは,何か物足りない.満足できそうにない.そこでいつかは歩こうと思っていた,徳願寺山から梵天山までの縦走路を計画に組み入れた.
梵天山(376m)は、以前に別ルートから上ったことがのある低山で,山頂の様子もよく知っている.夜間山行訓練の目的地としては,ちょうどよいと思えた.
前述の通り,この日の状況は,山行訓練実施にほぼうってつけだったのだが,実はいくつかの懸念材料もあった.まず一つ目は,その日の昼に腹を下していたこと.原因は不明で腹痛もなかったので,飲みすぎて水腹だったのかもしれない.一度トイレに行ったあとは,変調は起こらなかったが,やや気になる.
もう一つは,なんといっても体力面.前回,同じ徳願寺山に訓練に行ってから,5ヶ月が経過している.その間,当初はスクワットやシットアップなどの筋トレをしていたのだが,最近は筋トレをする元気すらなくなってしまっていた.いつ山に行けるのか,全くめどがつかない状況において,筋トレを動機づけることは,想像以上に難しいことだった.
これらは全く持って「言い訳」にすぎないのだが,とりあえず体調悪化による訓練中止も視野に入れながら,装備準備を開始した.
実は,今回の山行には,訓練の他にもう一つのやっておきたいことがあった.2つの装備テストだ.
前回の山行訓練中,使用していたランニングシューズのアウトソールが破損した.そのため,安い練習用トレッキングシューズを探したのだが,結局最も安価であろうケシュア(デカトロン)の Arpenaz 50 (税込1,990円)を購入することにした.すでに普段履きの靴として,慣らしを兼ねて舗装路で使用しているが,果たしてトレイルにどのぐらい耐えられるのかは未知数だった.
前回の山行訓練中,使用していたランニングシューズのアウトソールが破損した.そのため,安い練習用トレッキングシューズを探したのだが,結局最も安価であろうケシュア(デカトロン)の Arpenaz 50 (税込1,990円)を購入することにした.すでに普段履きの靴として,慣らしを兼ねて舗装路で使用しているが,果たしてトレイルにどのぐらい耐えられるのかは未知数だった.
もう一つは,新たに買い替えたスマホg07のGPS性能とそのバッテリーに関するもの.g07のGPS精度,GPSロギングによるバッテリー消費傾向,及びモバイルバッテリーによる充電速度に関するテストだ.アンドロイドアプリ「山岳ロガー」でGPSログを取りつつ,GPS精度やバッテリー消費量をチェックし,本番山行に対応できるかどうかを確かめたい.
ちなみにスマホg07は,先日日本のGPS衛星「みちびき(QZSS)」にアップデートで対応し,GPS精度が向上した.しかしながらそれでも,以前から山行のGPSログに使用していたタブレットNexus7と比較すると,明らかにGPS精度は落ちる.果たしてg07は,GPSロガーとしてNexus7の代替となりうるのかを確認したい.
そそくさと装備を準備するが,何しろ久々なので手際が悪い.幾つかの手順を忘れていたことには,山頂についてから気づいた.携行する水は,ほぼ夏仕様の3.5リットル.本日は湿度がかなり高いとはいえ,かなり余ることになるだろう.ザック重量は13kg程度か.
21:40自宅を出発.徒歩で徳願寺山門に至る登山口前まで移動.ここでヘッデンを装着し,山道に踏み込んだ.湿度が非常に高いため,土も石も濡れており,予想以上に滑りやすい.ただし Arpenaz 50 のアウトソールには,そこそこのグリップ力と耐久力があるようで,最後まで一度もコケることもなく,またアウトソールが壊れたり,大きく摩耗することもなかった.
最後の階段を登り切り,徳願寺山門の手前に出る.ここからは舗装された真っ暗な農道を,徳願寺ハイキングコース入り口を目指して歩いて行く.道の両側から聞こえてくる,カエルの鳴き声がけたたましい.いったいカエルたちはいつ寝るのだろう?
10分ほどでハイキングコース入り口に到着.ここから再び山道に入る.山道の状態は以前と変わっていないようだ.ただ途中で一つ変わったものを見つけた.
キノコだ.この季節に出てくるキノコもあるのだな.とりあえずスマホで写真をとっておく.
ここからは杉林の中,ずっと上りが続くのだが,思ったより身体が動いてくれるのがありがたい.湿度は予想よりはるかに高く,ヘッデンの光に身体から出る湯気が浮かび上がる.シャツはもちろん汗だくだ.
約30分で第1目的地の徳願寺山頂の展望台に到着.冬に訓練で登った時は,ここから静岡市街の夜景を見ることができたが,今回は樹木が伸びており,夜景は見ることができなかった.ただ山頂のベンチの後ろに,見知らぬ白い花がいくつか咲いていた.なんとなく自生ではないように感じられたが…
いつもならここのベンチに座って休憩を取るのだが,今回の最終目的地はここではない.撮影後すぐに,梵天山への分岐のある仏平に向かって歩き出した.
数分で仏平に到着.そこで,以前あったかどうかは忘れてしまったが,仏平の標識の上に,有志によるものであろう案内図を発見.先を急いだので,内容は未確認.
ここからは徳願寺ハイキングコースを離れて,梵天山への山道に入る.まったくの未知領域.最初は下りだ.
少し歩いて見てわかったのだが,そこそこ需要のある道らしく,予想以上に踏まれている.道筋もはっきりしている上に,分岐も出てこない.これならば,迷うこともなさそうだ.ただしハイキングコースではないためか,官製標識は出てこない.出てくるのはテープとケルンらしき石積みぐらい.
何度かアップダウンを繰り返し,15分ほどで数年ぶりに梵天山山頂に到着.ここは樹林に囲まれているため,展望も風も全く無い.
以前も使わせてもらったベンチにザックをおろし,さっそく休憩に入る.そして自分もベンチに座ろうと思い,敷物を濡れたベンチ上に敷こうとした時だった.ヘッデンの光条がベンチの上に何か蠢くものをとらえた.
大量のヤスデだ.ムカデと違って,噛み付いてくることはないらしいが,身体に這い上がって来ることだけはご御免被りたい.ここで座るのは諦めた.とりあえず立ったまま休憩.
梵天山は,いわゆる「丸子アルプス」に含まれる山.丸子アルプスの各山頂には,ノートと筆記具を収納する手製ポスト,寒暖計,丸太ベンチなどが備えられている場合が多いが,梵天山山頂もその例にもれず,それらが設置されていた.そこで寒暖計の温度を見てみる.
気温は思ったより低く,21度程度.暑く感じるのは,主に湿度のためのようだ.
目的地についたので,スマホから家人にGoogleハングアウトによる音声電話をかけてみる.ところが予想に反して,これがつながらない.ここは市街地に近く,完全に電波圏内であるはずなのに.スマホのSIMインジケーターを見てみると,なるほど4Gではなく3G通信に切り替わっており,なおかつ,ほとんど入感していない.湿度の高い樹林が電波を吸収してしまうのだろうか?何度か,トライしてみたがつながらず,途中で通話は断念した.
そうこうしている間に20分が経過.風もない山頂は蒸し風呂のように暑く,拭いても拭いても汗が吹き出てくる.ヤブ蚊も多く,すでに脚など数カ所を刺されていた.これは長いは無用.とっとと下山しよう.
下山のため歩き出すと,身体は思った以上に休まったようで,小気味よい良いテンポで歩を進めることができる.以前,山によく行っていた頃の,身体の感覚が戻ってきたような気がして,それがとても嬉しかった.ただし滑りやすい濡れた道を下るため,適度な制動と慎重さは,下山中ずっと要求された.
山道を抜け,農道に出て,数分歩いた時,ヘッデンの光がコンクリの壁に書かれている落書きのようなものをとらえた.
「仏平頂上↑」
その隣にコンクリートの階段.
どうやら徳願寺ハイキングコースとは別に,仏平に至るルートがあり,その登山口を示しているようだ.これは以前からあったような気もするが,石か何かで引っ掻いて書かれたらしい文字が,記憶よりもはっきりしているように見える.このルートの状態は全くわからない.日中に訓練時間が取れたら,チャレンジしてみたい.
さらに農道をしばらく歩いた頃から,足の裏にトラブルが発生した.両足の拇指球あたりが痛くなってきたのだ.おそらく靴紐の縛り方が甘かったのだろう.下りの歩行において,両足が靴の中で前方に動いて,ひどく擦れてしまったようだ.もはや血豆ができていてもおかしくない痛さだったが,帰宅を急ぐため,痛みを無視してそのまま歩くことにした.
下山を終えて一般道に入ってからは,足の裏の痛みはさらに増した.Arpenaz 50 は,今まで使用してきたトレッキングシューズと比較して,クッション性がほとんど感じられない.足の裏着地時の衝撃が,直に伝わってくる感じの靴だ.もしかしたらミッドソールが殆ど無いのかもしれない.これに関してはインソールを交換するなど,何らかの対策が必要になりそうだ.
1:35無事帰宅.疲れはあったが,想定内に収まった感じ.膝も壊れなかったし,腹痛も発生せず.足の裏をチェックしてみたが,拇指球部が赤く腫れていたものの,血豆はなく,その後,徐々に腫れも引いていった.ただ,右足の人差し指の爪はグラグラになっていたが…
水消費量は2リットルだったが,これはやや無理して飲んだ結果であり,本来の消費量はもう少し少なかったはず.
風呂に入って汗を流し,空腹を感じたので,カップ麺を食らう.そして…
…そしてじんわりと「満足」を味わった.肩に残るザック重量の余韻,脚全体を覆う熱い火照り,鈍い肉体的精神的疲労感,長い沈黙によって平に慣らされた「たましい」
「山に行ってきたのだ」
この不思議な満足感は,単純に山行欲求が満たされたことによるものではない.「今生きている」こと,そのものに対する満足と言ったらいいのだろうか?…よくわからない.感謝の念が自然に,心の奥底から湧き上がってくる.ああ,本当によかった.
これで終われば「めでたし,めでたし」だったのだろうが,話はここで終わらない.
実はその夜,うまく眠れなかったのだ.脚がひどく火照ってしまい,暑くて眠れない.そのうちウトウトしだしたのだが,明け方頃,急に目が覚めてしまった.そして体の変調に気づいた.喉の痛み,鼻詰まり,そして頭痛.油断してしまった.これはアレルギー症状か,風邪を引いた感じだ.アフターケアが足りなかったのかもしれない.
確かに今年の春は,全く山行ができなかったので,杉に慣れる機会はなかった.今回は久々の杉林山行だったので,もしかしたら知らず知らずのうちに,ある程度の量のスギ花粉を吸い込んでしまった可能性がある.そういえば顔も少し腫れている感じだ.杉林の中で,顔の汗を頻繁に拭き取ると,花粉が皮膚に刷り込まれて,この現象が起こることは,経験的には知っている.しかしアレルギーならば,目に異常がないのはなぜか?
目に異常がないとなると,風邪である可能性の方が高い.そこでとりあえずパブロンSを服用することにした.服用後は症状が緩和されたが,パブロンが切れてくると症状がぶり返したため,複数回の服用を余儀なくされた.
行動時間中は,思ったよりも身体が衰退していないと感じていたのだが,とんでもない錯覚だったようだ.このぐらいの負荷で風邪を引いてしまうということは,全く身体はできていないということじゃないか.
今は座学も,訓練も,筋トレも足りていない.これでは山に行く機会が巡ってきたとしても,単独山行は無謀というほかなかろう.
「ではどうするんだ?お前は.」とも思うのだが,今はその思いを脇においておくことを,どうかお許し願いたい.
今はもう少しだけ.この小さな山行の,甘い余韻に浸っていたいので.
21:40自宅を出発.徒歩で徳願寺山門に至る登山口前まで移動.ここでヘッデンを装着し,山道に踏み込んだ.湿度が非常に高いため,土も石も濡れており,予想以上に滑りやすい.ただし Arpenaz 50 のアウトソールには,そこそこのグリップ力と耐久力があるようで,最後まで一度もコケることもなく,またアウトソールが壊れたり,大きく摩耗することもなかった.
最後の階段を登り切り,徳願寺山門の手前に出る.ここからは舗装された真っ暗な農道を,徳願寺ハイキングコース入り口を目指して歩いて行く.道の両側から聞こえてくる,カエルの鳴き声がけたたましい.いったいカエルたちはいつ寝るのだろう?
10分ほどでハイキングコース入り口に到着.ここから再び山道に入る.山道の状態は以前と変わっていないようだ.ただ途中で一つ変わったものを見つけた.
キノコだ.この季節に出てくるキノコもあるのだな.とりあえずスマホで写真をとっておく.
ここからは杉林の中,ずっと上りが続くのだが,思ったより身体が動いてくれるのがありがたい.湿度は予想よりはるかに高く,ヘッデンの光に身体から出る湯気が浮かび上がる.シャツはもちろん汗だくだ.
約30分で第1目的地の徳願寺山頂の展望台に到着.冬に訓練で登った時は,ここから静岡市街の夜景を見ることができたが,今回は樹木が伸びており,夜景は見ることができなかった.ただ山頂のベンチの後ろに,見知らぬ白い花がいくつか咲いていた.なんとなく自生ではないように感じられたが…
いつもならここのベンチに座って休憩を取るのだが,今回の最終目的地はここではない.撮影後すぐに,梵天山への分岐のある仏平に向かって歩き出した.
数分で仏平に到着.そこで,以前あったかどうかは忘れてしまったが,仏平の標識の上に,有志によるものであろう案内図を発見.先を急いだので,内容は未確認.
ここからは徳願寺ハイキングコースを離れて,梵天山への山道に入る.まったくの未知領域.最初は下りだ.
少し歩いて見てわかったのだが,そこそこ需要のある道らしく,予想以上に踏まれている.道筋もはっきりしている上に,分岐も出てこない.これならば,迷うこともなさそうだ.ただしハイキングコースではないためか,官製標識は出てこない.出てくるのはテープとケルンらしき石積みぐらい.
何度かアップダウンを繰り返し,15分ほどで数年ぶりに梵天山山頂に到着.ここは樹林に囲まれているため,展望も風も全く無い.
以前も使わせてもらったベンチにザックをおろし,さっそく休憩に入る.そして自分もベンチに座ろうと思い,敷物を濡れたベンチ上に敷こうとした時だった.ヘッデンの光条がベンチの上に何か蠢くものをとらえた.
梵天山は,いわゆる「丸子アルプス」に含まれる山.丸子アルプスの各山頂には,ノートと筆記具を収納する手製ポスト,寒暖計,丸太ベンチなどが備えられている場合が多いが,梵天山山頂もその例にもれず,それらが設置されていた.そこで寒暖計の温度を見てみる.
気温は思ったより低く,21度程度.暑く感じるのは,主に湿度のためのようだ.
目的地についたので,スマホから家人にGoogleハングアウトによる音声電話をかけてみる.ところが予想に反して,これがつながらない.ここは市街地に近く,完全に電波圏内であるはずなのに.スマホのSIMインジケーターを見てみると,なるほど4Gではなく3G通信に切り替わっており,なおかつ,ほとんど入感していない.湿度の高い樹林が電波を吸収してしまうのだろうか?何度か,トライしてみたがつながらず,途中で通話は断念した.
そうこうしている間に20分が経過.風もない山頂は蒸し風呂のように暑く,拭いても拭いても汗が吹き出てくる.ヤブ蚊も多く,すでに脚など数カ所を刺されていた.これは長いは無用.とっとと下山しよう.
下山のため歩き出すと,身体は思った以上に休まったようで,小気味よい良いテンポで歩を進めることができる.以前,山によく行っていた頃の,身体の感覚が戻ってきたような気がして,それがとても嬉しかった.ただし滑りやすい濡れた道を下るため,適度な制動と慎重さは,下山中ずっと要求された.
山道を抜け,農道に出て,数分歩いた時,ヘッデンの光がコンクリの壁に書かれている落書きのようなものをとらえた.
「仏平頂上↑」
その隣にコンクリートの階段.
どうやら徳願寺ハイキングコースとは別に,仏平に至るルートがあり,その登山口を示しているようだ.これは以前からあったような気もするが,石か何かで引っ掻いて書かれたらしい文字が,記憶よりもはっきりしているように見える.このルートの状態は全くわからない.日中に訓練時間が取れたら,チャレンジしてみたい.
さらに農道をしばらく歩いた頃から,足の裏にトラブルが発生した.両足の拇指球あたりが痛くなってきたのだ.おそらく靴紐の縛り方が甘かったのだろう.下りの歩行において,両足が靴の中で前方に動いて,ひどく擦れてしまったようだ.もはや血豆ができていてもおかしくない痛さだったが,帰宅を急ぐため,痛みを無視してそのまま歩くことにした.
下山を終えて一般道に入ってからは,足の裏の痛みはさらに増した.Arpenaz 50 は,今まで使用してきたトレッキングシューズと比較して,クッション性がほとんど感じられない.足の裏着地時の衝撃が,直に伝わってくる感じの靴だ.もしかしたらミッドソールが殆ど無いのかもしれない.これに関してはインソールを交換するなど,何らかの対策が必要になりそうだ.
1:35無事帰宅.疲れはあったが,想定内に収まった感じ.膝も壊れなかったし,腹痛も発生せず.足の裏をチェックしてみたが,拇指球部が赤く腫れていたものの,血豆はなく,その後,徐々に腫れも引いていった.ただ,右足の人差し指の爪はグラグラになっていたが…
水消費量は2リットルだったが,これはやや無理して飲んだ結果であり,本来の消費量はもう少し少なかったはず.
風呂に入って汗を流し,空腹を感じたので,カップ麺を食らう.そして…
…そしてじんわりと「満足」を味わった.肩に残るザック重量の余韻,脚全体を覆う熱い火照り,鈍い肉体的精神的疲労感,長い沈黙によって平に慣らされた「たましい」
「山に行ってきたのだ」
この不思議な満足感は,単純に山行欲求が満たされたことによるものではない.「今生きている」こと,そのものに対する満足と言ったらいいのだろうか?…よくわからない.感謝の念が自然に,心の奥底から湧き上がってくる.ああ,本当によかった.
これで終われば「めでたし,めでたし」だったのだろうが,話はここで終わらない.
実はその夜,うまく眠れなかったのだ.脚がひどく火照ってしまい,暑くて眠れない.そのうちウトウトしだしたのだが,明け方頃,急に目が覚めてしまった.そして体の変調に気づいた.喉の痛み,鼻詰まり,そして頭痛.油断してしまった.これはアレルギー症状か,風邪を引いた感じだ.アフターケアが足りなかったのかもしれない.
確かに今年の春は,全く山行ができなかったので,杉に慣れる機会はなかった.今回は久々の杉林山行だったので,もしかしたら知らず知らずのうちに,ある程度の量のスギ花粉を吸い込んでしまった可能性がある.そういえば顔も少し腫れている感じだ.杉林の中で,顔の汗を頻繁に拭き取ると,花粉が皮膚に刷り込まれて,この現象が起こることは,経験的には知っている.しかしアレルギーならば,目に異常がないのはなぜか?
目に異常がないとなると,風邪である可能性の方が高い.そこでとりあえずパブロンSを服用することにした.服用後は症状が緩和されたが,パブロンが切れてくると症状がぶり返したため,複数回の服用を余儀なくされた.
行動時間中は,思ったよりも身体が衰退していないと感じていたのだが,とんでもない錯覚だったようだ.このぐらいの負荷で風邪を引いてしまうということは,全く身体はできていないということじゃないか.
今は座学も,訓練も,筋トレも足りていない.これでは山に行く機会が巡ってきたとしても,単独山行は無謀というほかなかろう.
「ではどうするんだ?お前は.」とも思うのだが,今はその思いを脇においておくことを,どうかお許し願いたい.
今はもう少しだけ.この小さな山行の,甘い余韻に浸っていたいので.