★概要
- 日程:2016年3月15日
- 天候:雨のち晴れ,参謀本部山山頂気温(4.9℃)
- コースタイム:
自宅発4:50→レインウエアに着替10分→玉川キャンプセンター着8:00→茶畑着8:20→準備10分→茶畑発8:30→NHK玉川東テレビ中継放送所着9:10→井川清水線27号鉄塔着9:20→林道着10:40→権七峠(推定)着11:00→参謀本部山(権七)着11:30→休憩1.5時間→参謀本部山(権七)発13:00→井川清水線27号鉄塔着13:50→茶畑着14:10→玉川キャンプセンター着14:30→自宅着17:00 - 総行動時間:10.5時間(自転車:3+2.5時間,山行:3.5+1.5時間)
- 休憩時間:2時間
- ルート:松浦理博「安倍山系 中」,権七ルート③
★写真(164枚)
★動画(5本)
★ 感想
しかしもちろん,参謀本部の建物が山頂にあったわけではない.三角点の埋標を旧日本陸軍参謀本部が行ったため,地元の方々がそう呼ぶようになったと「安倍山系」には書かれている.
まずは自転車で玉川キャンプセンターに向かったのだが,市街地通過中に雨に降られてしまった.しばらくおもちゃ屋の軒先で雨宿りしたのだが,止む気配は見えず,あきらめてレインウエアを着て,ザックカバーをかけた.
玉川キャンプセンターに続く県道27号線は,初めて自転車で走る道だ.そのため様々な発見があった.
まず道沿い斜面の伐採地で発見したのは,シカの群れだった.6匹ぐらいいただろうか.初めて群れをなしたシカを見た.撮影するため自転車をそっと停めたまではよかったが,スマホを群れに向けると,突然甲高い警告音を発して,尾根へと一気に駆け上がり逃げてしまった.残念.
続いて発見したのは「静清庵自然歩道」の標識群だった.静清庵自然歩道は,ネットにおいてもあまり情報がない,ちょっと謎めいた自然歩道だ.どうやら県道27号線は静清庵自然歩道の一部となっているらしく,何本もの道標に出くわした.
中でも自分の全く知らない「大子野山」の標識は謎めいており,自分の興味を引いた.この謎解きについては,次のブログ投稿「林道中沢線→大段山(710m)」を参照のこと.
発見はまだある.県道沿いに「奥池ヶ谷城跡」への入口があった.この城址については全く知らなかったが,簡単に登れそうだ.今回はノータッチ.
最後に立派な「玉川公衆トイレ」の存在.登山者のベースとなる,いわゆる「観光トイレ」ではなく,駐車スペースも広いので,おそらく「道の駅」的な役割を担っているのだろう.
約3時間の自転車行で玉川キャンプセンターに到着.近くに自転車を停めて,登山口があるはずの茶畑に向かい,車道を歩き出した.
道沿いには「玉川キャンプ場ハイキングコース」の小さな私製標識がちょくちょく現れる.玉川キャンプ場ハイキングコースについても全くの初耳で,自分は情報を一切持っていなかったが,この標識は自分の第一目標である茶畑へと導くようだ.
茶畑につくと,レインウエアを脱ぎ,ザックカバーを外した.とっくに雨は上がっていたが,茶畑がすぐに見つからない可能性もあったため,とりあえず先を急いで着替えていなかったのだ.着替えを終えて,登山ルートにあたる茶畑の真ん中の道を歩き出した直後,茶畑の端に奇妙な私製標識を見つけた.そこには次のように書かれていた.
「ハイキングコースは危険なため行かないで」
内容を考えれば,これは標識とはいえない.これは「懇願」だ.おもしろいことに,先ほどまで現れていた玉川キャンプ場ハイキングコースの私製標識は,この「懇願」のある茶畑の道ではなく,別の方向を指し示していた.つまりここは玉川キャンプ場ハイキングコースではないはずだ.ではこの「懇願」は何のためにここにあるのか?また「危険」とは具体的に何を意味しているのか?
狐につままれたような気持ちとともに,茶畑の上端へと上っていく.そこにはありがたいことに中電巡視路標識があり,その矢印の先に山道が見えた.この取り付き部が発見できるか,それまでちょっとした不安があったのだが,これで一安心.この分なら今後も巡視路標識はちょくちょく出てくるだろう.
山道をしばらく上ると,巡視路以外の標識が道端に落ちていた.
あきらかに「玉川ハイキングコース」と書かれている.となるとこの山道は,玉川ハイキングコースの,少なくとも一部なのだろう.では先ほどの茶畑前の分岐で見た,別方向に導く私製の玉川キャンプ場ハイキングコース標識は何だったのだろう?もしかして「玉川ハイキングコース」と「玉川キャンプ場ハイキングコース」は別物なのか?そんな紛らわしいことをするとは思えないが…
確かに,山道の荒れ方から,人はあまり入っていない感じはした.何らかの理由によりこの道は,ハイキングコースとしてもはや整備されていないのだろう.ただし中電巡視路としては機能しており,巡視員によって道は踏まれているようだ.事実,下山時に,下から上ってきた二人組の中電巡視員とおぼしき方々と擦れ違い,挨拶を交わした.その時,先頭の方が「自分たちはゆっくり上っていくから」と言って,下山中の自分に道を譲ってくださったのだった.ありがとうございました.
登り始めはハイキングコースらしく,山道には丸太階段などが整備されていた.道幅も広めで,広葉樹も多く,気持ちのよい道だった.が,しばらく歩くとお馴染みの杉林に変わってしまった.残念.
今回選択したルートにはいくつかの小目標がある.その一つが「NHK玉川東テレビ中継放送所」 .
それは鬱蒼とした杉林の中で,ある種の違和感を放ちながら静かに建っていた.階段のついた簡易トイレのような趣きなのだが,ドアに大きく書かれた「NHK」の赤い斜体文字は,そのようなチープなイメージを敢然と拒絶している.
この「NHK」の文字は,その後も山道に連続して現れる.どうやら山道沿いに,この中継所へ映像を伝送するための電線が埋設されているらしく,NHKの埋設標柱がちょくちょく出てくるのだ. つまりこの山道は,ハイキングコースであり,中電巡視路であり,NHK中継所用作業道でもあるということなのだろう.
ちょっとした展望のある井川清水線27号鉄塔を経由して,更に上っていくと道が怪しくなりだした.尾根筋に向かいそうな道を選択したのだが,その道は先の方で笹薮に塞がれていた.
覚悟して笹の中に飛び込んでいく.ありがたいことに,薮は思ったより短く,5分もかからず通過できたと思う.ただしその後も笹は,道の横からでしゃばってくる.
しばらく行くと赤い旗ともに,ガレが現れた. その前には崩れた炭焼き窯跡らしきものもある.安倍山系に書かれていたとおり.ルートは外れていないようだ.少し展望もあったので,安堵感とともに写真を撮っておく.
その後も笹が多く,笹と倒木で道を塞がっている場所もあったが,道筋ははっきりしており,NHK埋設標も途切れることがない.分岐のない杉と笹の山道をひたすら上っていく.
やがて植生が杉林から明るい広葉樹林に変わった.そこからは急登.行く手を阻む笹と戦いながら,落ち葉に覆われ滑りやすくなった急登を上っていく.その途中,倒木にくっついていたキクラゲを発見した.キノコは今までいろいろと見てきたが,キクラゲは初めてだ.木を選ぶのだろうか?
急登の最後には,奇妙な黄色い階段が現れた.階段はなんと,黄色いプラスティック製標柱を束ねて丸太のようにしたアイディア階段だった.広葉樹の落ち葉に覆われた直線的な急登で滑りやすかったため,この階段はありがたかった.
その階段を登り切ると,突如林道に出た.この林道の事は安倍山系には全く書かれていない.出版後に出来た林道なのだろう.ここにおいて安倍山系の権七ルート③は,ついに途切れた.だが驚くには値しない.よくあることなのだから.
ありがたいことに近くの斜面に,権七峠を示す真新しい私製標識があった.それにしたがって林道を道なりに歩いていく.権七峠に着けばなんとかなる.なんとかならなければ,なんとかする.
ところがその権七峠の位置がはっきりしない.GPSを見ながら権七峠らしき場所まで林道を歩いたのだが,そこは工事中であり,尾根への道も,簡単に尾根に取り付けそうな斜面もない.やむを得ず参謀本部山山頂の近くまで林道を歩いた.もしかしたら林道から参謀本部山山頂に至る道が作られているかもしれない.
参謀本部山山頂付近の林道からの展望は素晴らしかった. 雪化粧をした遠くの山なみが目の前に広がっていた.
自分は写真と動画を撮影した.ただし林道の前方で重機が作業しているのが見えた.また参謀本部山直下の斜面を見たところ,参謀本部山山頂への取り付きもなさそうだ.そこでもう一度,権七峠付近に戻り,斜面から尾根への取り付きが可能かどうか検討してみた.
参謀本部山周囲にあった別の林道も含めて偵察してみたのだが,斜面からの取り付きはどれも厳しそうだった.結局,唯一取り付けそうな場所は,最初に権七峠とみなした工事現場の裏だった.そこには幅の広い急坂があり,参謀本部山山頂に向かって伸びているようだ.そこで工事現場脇のザレた斜面を上り,その坂道を目指した.
何とかその坂道にたどり着き,作業道と思われる幅の広い急坂をつづらで登っていくと,穏やかな山道に出た.あいかわらず幅が広い.これもやはり作業道なのだろう.その道をさらに山頂方面へと進んでいくと,山頂への取り付きが現れる前に行き止まりにぶつかった.道が終わってしまった…
…とりあえず行き止まりの周囲に取り付きを探してみたのだが,獣道すら見当たらない.こうなったらなんとしても,尾根に取り付き可能な斜面を探しだすしかない.斜面を探索しながら来た道を戻って行くと,3mぐらい上れば尾根筋にたどり着ける場所があっけなく見つかった.これはありがたい.さっそく尾根に取り付いていく.
尾根筋に上がるとそこにはテープと道があった.ある程度踏まれている感じがして,歩きやすい.そのまま山頂へ向かう.あちこちの木の根に白いものが見えたが,それは残雪だった.早朝,平地では雨だったが,こちらでは少し雪が降ったのかもしれない.
山頂に数10mまで近づいたところで,道は濃い笹薮に飲み込まれていた.おそらく距離は短いので,強行突破しようとも思ったのだが,周囲をよく見渡すと左奥の杉の幹にテープが見えた.もしや迂回路かと思いそちらに向かうと,ビンゴ.そこから参謀本部山山頂にらくらく到達できた.
山頂は杉林の中で展望はない. 二等三角点標石と一本のかわいい私製山名標柱があるだけだった.平坦で比較的広い場所なので,休憩はしやすい気がする.ただ山頂直下の林道で作業をしていたため,ラジオと重機の音が山頂まで響いてきたことは,静けさを求める自分にとっては残念.
下山時には再び林道にあった展望地から,遠くに見えた雪山を撮影した.
その写真を見ていると,なぜだか「懐かしさ」を覚える.登ったこともない山なのに,そこにあるのは過酷な環境なのに,なぜか切ない憧れに満たされてしまう.「帰るべき場所」とでも言うのだろうか?
大都会フランクフルト.そのゼーゼマン家の屋根裏部屋で,ハイジは大きな雪山の絵を見つめて,涙を流した.「帰りたいのに帰れないの!」
自分はいつになったら,そこに帰ることができるのだろうか?